倒れこむ父と鈍感な私




(承前)
父親の様子がおかしいというというので、タクシーを飛ばして家へ帰ったわけです。
夜の12時頃でした。
父の寝室は2階だったので、階段を上がって2階に行くとそこで妙な光景を目にすることになります。

就寝用のガウンをまとった父が、部屋の隅の柱を背にして座り込み、何とか立ち上がろうともがいても立ち上がれず、へたり込んでいる。
かたわらで母が父の手を引っ張って起き上がらせようとしますがとても無理な様子です。
当時父が82歳、母が76歳ですから母も体力が弱っていて、手の施しようがないという感じです。
「もう1時間もこんななんだよ」と母。

私はまず父の意識を覚醒させようかと思い、氷を口に入れました。
父はその氷をしばらく口に含んでから、カリカリと噛んで飲み込みました。
多少はスッキリしたような感じなので、「酒飲み過ぎて酔っぱらったんじゃないの」
と私が聞くと、「今日は酒はそんなに飲んでないよ。とにかく立たせてトイレに行かせてくれ」と父は言います。

そこで私は力一杯父を抱き起こし、後ろから支えて何とかトイレへと向かいました。
廊下を通って右へ曲がればトイレというところで、「トイレはどっちだ、こっちだな」と手で左を指差します。

ここでやっと私はことの重大さに気がつきました。

これは一時的な身体の痺れや麻痺などではなく、脳から来ている、脳神経をやられてしまったなと直感的に理解しました。
今から考えれば何とも鈍感な話ですが、ここから更に致命的とも言えるミスを犯すことになります。(続)