どん底 (1957) 監督 黒澤明






ストーリーほか作品情報: wikipedia




黒澤明を続けます。

陽が射さない窪地のような場所にある、吹き溜まりの、まさに「どん底」な長屋が舞台。物語は長屋の内と外(窪地を出ない)のみで繰り広げられるので、ある種「密室」。そこに出入りする底辺生活者の日常、呟き、呻きが切なく、可笑しく、かつ美しく見える。まるで舞台劇を観賞しているような、そしてそれが狙いとばかり実に40日間に及ぶリハーサルを重ね、複数台のカメラで長廻しで撮影されたというから、ドキュメンタリーとして見えなくもない。












そして黒澤明が語るように、そのように撮るからには芸達者な、巧みな俳優が集められたと。もはやそのほとんどが鬼籍の方ばかりですが、ここに役柄とお名前を記して記憶と記録に留めたいと考えます。










物語はしばらく主役級不在のまま、このボロボロの長屋に住み着く人間たちのどん底模様を映し出します。鋳掛屋(鍋や日常品の修理業)の東野英治郎(当時50歳)が長屋の片隅で鍋の底を延々とガリガリと削っています。台詞少なく、喋ったかと思えば怒鳴り散らし、すべてに対して深い怒りに溢れたような姿、その傍らには寝たきりの妻・三好栄子(63歳)が、いくばくもない余命のあわれな小言を繰り返しますが、東野英治郎もそこにいる誰もが彼女に無関心を装っています。当然のことながらここでは他者を慮る余地など皆無。






東野英治郎(1907-1994)私にはザ・水戸黄門の印象が強いですが、数多くの傑作に出演しています。独特の風貌で善人〜悪役まで幅が広い。


私説 父(オド)物語―新劇運動から「水戸黄門」まで“東野英治郎の堂々役者気質”




三好栄子(1894-1963)戦前に舞台俳優として活躍、戦後黒澤明監督第一作「わが青春に悔いなし」にて52歳で銀幕デビュー。以後、黒澤ほか成瀬巳喜男・小津安二郎など巨匠の作品に数多く出演。なんてったってこの風貌ですから、そりゃ愛されたと思います。(写真は別映画)







遊び人・三井弘次(1910-1979 当時47歳)が飄々と長屋に集う面々を茶化し、狂言回しの役を勤めます。





三井さんはこの映画で各賞を受賞。 「浮草 (1959) 」監督 小津安二郎  など巨匠に愛される名バイプレーヤー。独特の声色、台詞の間合い、戦前に「与太者シリーズ」というのがあって、それで人気を得たそうで、ほんとまさに与太者演じさせたらピカイチ。





「俺は殿様だったんだ!」酔うとそう叫び、いかに自分が由緒ある武家に育ったかを力説するも、誰にも相手にされず信じてもらえず逆切れして泣きじゃくる姿があわれで可愛い大男に千秋実 (当時40歳)。

千秋実(1917-1999) ↓ そんな人生だったんですね!


生きるなり―脳卒中から奇跡の生還 (文春文庫 (361‐1))





昔は偉かった、お金持ちだったなどといくらほざいても、このどん底長屋ではまさに負け犬の遠吠えにしか聞こえない。同じように元は人気の歌舞伎役者だったという藤原釜足(当時52歳)は酒で身をほろぼし、これまたそんな過去を誰にも信じてもらえず、「俺は役者だ!」と大見栄を切ってみせるものの「・・・・・」つづく台詞が出て来ない。


藤原釜足 (1905-1985 ) 写真は先にレビューした 「悪い奴ほどよく眠る (1960)」 監督 黒澤明 より。こっちも強烈な印象残しました。怪優です。






田中春男 (当時45歳)も良い味出してました。三井弘次と出てた 「浮草 (1959) 」監督 小津安二郎 の与太者ぽい役者とか 「近松物語 (1954) 」監督 溝口健二 で借金をねだる放蕩息子とか、ええかげんな役やらせればピカイチ。


↓ 田中春男 (1912-1992 )の若き日。イケメン〜






そこに怒りぽい夜鷹(街娼)の根岸明美 (1934-2008 当時23歳)。 写真はキングコングと♡。






と、東野英治郎と同じくかろうじて手に職を持っているというか、稼ぎに出る飴屋の清川虹子 ( 当時45歳)らが絡み、「底」から這い上がりたいけど這い上がれないばかりか、ある種「底」にしがみつくように生きるしかない人間模様を見せつけられます。


清川虹子 (1912-2002 ) この風貌でシリアスからコメディまで幅広かった〜


恋して泣いて芝居して






長屋の向かいには大家さん夫婦が暮らしております。旦那は二代目・中村鴈治郎(当時55歳)で、これがまるでモノ言わず獲物を待ち受ける蛇のようなメイクと佇まいで最高! 「浮草 (1959) 」監督 小津安二郎 では河内弁で京マチ子と罵り合う(その時も表情変えずに鬼になれる役者だと感心しましたが)芝居が凄まじかったのですが、ここでは出番も台詞も少ないのに圧倒的な存在感で痺れました。


二代目・中村鴈治郎(1902-1983) 写真は翌年公開 「大阪の女 (1958)」 監督 衣笠貞之助 より。





そしてその妻に山田五十鈴(当時45歳)。山田は泥棒稼業で他の誰よりも良い風貌の三船敏郎(当時37歳)と関係を持っていて、時折せがむようにやってきますが、三船は山田五十鈴の若い妹・香川京子(当時26歳)とも関係があるらしく、秘かに香川と駆け落ちしようと考えております。





左から三船敏郎・香川京子・左卜全。





山田五十鈴(1917-2012)私が観た三船敏郎との共演芝居 「下町 ダウンタウン (1957) 」監督 千葉泰樹 や 「用心棒 (1961) 」監督 黒澤明 とかを思い起こしても、いくら着る服が似ていても、いずれも役柄に変化があってほんと凄いなと思います。


山田五十鈴 (日本の映画女優)






三船敏郎(1920-1997)共演者に気を配る優しい方だったそうです。 ↓ ジグソー〜♡


108ピース ジグソーパズル 三船敏郎 ラージピース(26x38cm)






香川京子(1931〜)今回、2018年春に開催された「香川京子映画祭」で「どん底」を観賞。 ↓ 紹介記事。











黒澤映画に出演した女優さんで最多出演(5回)を誇るのが香川さんです。写真は「凛たる人生・映画女優 香川京子(ワイズ出版)」より。







掃きだめの日常が続く長屋に、香川京子が出会った巡礼者・左卜全(ひだり・ぼくぜん 当時63歳)を連れ込んできたことで、長屋の空気・人間関係に変化が訪れます。左卜全の達観した物言いに感化される者とされない者がはっきりと分かれ、こんな底辺の生活をそれぞれがどう捉えていくか?それぞれにとって生きるとはどうゆうことなのか?←そんなこと誰も語りませんが、そう心で感じ始める輩と感じない輩。





左卜全(1894-1971)この顔っ!!! 奥に蛇顔の中村鴈治郎、山田五十鈴。




昭和40年代はじめには ♪ドゥビドゥバ〜 と歌ってました(懐)。レコード発見できず。


奇人でけっこう—夫・左卜全 (1977年) [古書] by 三ケ島 糸【中古】






さてさて三船敏郎の駆け落ちはうまくいくのか?左卜全によって感化された者たちに救いはあるのか?でもほんとはそんなことどうでも良いわ〜と三井弘次はじめ長屋の面々が、ラストに口囃子(口で三味線や太鼓の音を模して、まるで現在のRAPかヒューマン・ビートみたい!)で踊り狂うという。そして落語のサゲのようなひと言で「終」。黒澤明は撮影前にスタジオへ落語家を呼び、スタッフキャストに江戸前落語を聴かせたというから、まさに見終わって、そうか「落語」を観ていたのかと。いやはや〜やられました!「えいっ!こちとら江戸っ子だいっ!」と大阪産まれの私さえそう言ってしまいたくなるような、粋な一本でした。





歌い踊り狂う面々。





女衆も迫力ありました。左から根岸明美・山田五十鈴・清川虹子。












この映画に参加した役者たちに敬意を表し、永遠に残る傑作として語り継ぎます!みなさんも是非是非!





2018年 3月23日
池袋・新文芸坐 ”女優人生70年企画 香川京子映画祭” にて観賞









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