小説、恋愛小説

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あなたを殺したい

本文はここから



俺はこの街で暮らしだして三十二年

重ねる年齢と共にそれなりの付き合いもして、誰からも嫌われる事もなく生きてきた。

ただこの歳になっているが、あいにくそれなりの彼女が出来る事もなく、三十二年が過ぎていた事は否めないい。


勿論心を引かれた人はそれなりに居たが、きっかけが無く今日に至っている。



そんなある日、空き地になっていた百メートルほど先の通り道の分譲地に、クレーン車がぎゅうぎゅうと音を立てて家を建てだした。

どこかの誰かが引っ越してくる事は直ぐにわかった。

あっという間に家が建った。
俺が勤めに行こうとしてその家の前を通るのだが、どうも新婚さんのように思える雰囲気である。 


奥さんが朝、旦那さんを見送っていく姿が初々しく、新鮮味に溢れていて、如何にも幸せそうに思えて羨ましささえ俺には感じた。



俺は旦那さんを見送る奥さんに向かって軽く頭を下げて、通り過ぎる毎日を繰り帰していると、
今までよそよそしい格好で在った奥さんも、次第に頭を少しだけ下げて下さるようになり、
その笑顔はどんな男でも心に残る透き通ったような笑顔で在った。


先に送られていた旦那の顔はわからないが、さぞ男前で経済的にも引けを取らない医者とか会社役員とか

後ろ姿を俺は何度か見る事があったから、それなりの社会人としても立派な地位にある男を想像していた。

あれ程の奥さんを落とす事ができる男って・・・僻む気持ちもどこかにあって、奥さんの笑顔をいつの間にか見つめる事が俺の唯一の喜びに変わって行く毎日となった。


だから俺は母親と二人暮らしで在ったが、百メートル過ぎた場所で毎日決まって旦那さんを見送る奥さんの姿を拝んでから、会社に向かう事を唯一の喜びとなっていたから、母親にいつの間にか朝食は決まった時間に作ってもらっていた。



その引っ越してきた夫婦の旦那さんは、俺より僅かで在ったが年上に思え、奥さんは俺よりかはいくらか下に見え

おそらく二十七か八に思えた。


そんな新婚さんがやって来た事で、疚しくも俺の心に灯が灯ったようになり、俺はそれから思わぬ波乱の道を歩む事になる。


 新婚さんがやってきてから早半年が過ぎたころ、母親がその新婚さんの情報を何となく耳に入れた様で俺に語ってくれた。

「あのお二人、赤ちゃんには恵まれないようよ。奥さんが美容院で漏らしていたって聞いたわ。つまりする事はしてるようだけど・・・奥さん子供さんがほしくてほしくて焦っているみたい。だから余計な事まで言ってしまうのね。」

「そうなんだ。大変だね女の人は・・・」
「あなたも早くいい人見つけて、母さんに孫の顔拝ませて・・・そんな人居ないの?」

話は方向転換したから俺は面倒くさくなって母親の言葉を遮り自分の部屋に逃げた。


ところがその母親の言葉は俺の頭から離れる事はなく、その一言で俺は余計な事を考えていた。

早一年が経ち、新婚さんも朝には奥さんが相変わらず見送る甘い毎日を続けていたが、奥さんのお腹が膨らんでくる事がなく、
母親から奥さんの心の内をいつか聞いた事があったから、関係無い俺でも奥さんが懐妊することを願っていた部分もあった。



 また正反対にこのままお腹に変化が起こらない事もいつしか願っていて、その二人の動作を頭に描いた時、どれだけ辛かったか、俺はバカかも知れないが、身勝手だったけど奥さんが悶える姿を想像するだけで堪らなかった。


俺の心の病気は三十三歳になっても、何ら変化なくまた適齢期のいい人に出会う事もなく、悶々とした中で、ただ唯一毎朝奥さんの笑顔に触れる事だけが生き甲斐であった。

奥さんが俺の事をどの様に思っているかなど関係なく、それを深く知ったところで
ご近所さんは礼儀正しく年齢も主人ほどの人・・・おそらくそれくらいの印象だろう。


俺は奥さんの俺に対する思いを突き詰めて考えようとは思わなかった。

その程度である事はわかっていた。そして頭を下げてくださるから仕方なく・・・

この程度である事もわかっていた。

俺は少々ひねくれていたかも知れない。
この歳まで将来を誓い合った人にも出会った事もなく、何も一人が好きってわけでもなく、

弾き飛ばされたような人生である事には間違いないわけで、悶々としている事にも間違いない。


新婚さんがやってきてから一年が過ぎたころに、俺の母親が体の具合が悪いと言い出し、急きょ入院になった。
俺は困った。
毎日きちんと朝食を作ってくれていた母親が入院してしまい、それも大病である事もわかり、俺は長年続けてきた生活環境が著しく変化する事に戸惑っていた。


 母はそれから六十日入院したのちに息をひき取った。六十七歳で在った。
親父を若くして亡くしてから女手一つで俺を育ててくれた律儀な人で、俺の事を考えたあまりに再婚もせずに六十七年の人生を全うした。


そんなこんなで俺はあの毎朝頭を下げてくださる綺麗な新婚さんの奥さんの喪服の姿を見る事になった。


我が母の葬儀に参列してくださり、いつも見ている笑顔ではなかったが、凛々しい姿は俺の心を彷彿させるもので在った。


「あんな綺麗な奥さんと暮らせたら俺毎日・・・」
不謹慎で在ったがそんな事まで考えていた。



俺は母のお葬式で自治会の方と言葉を交わす事になったが、当然奥さんもその一人で、同じようにお隣さんもそのお隣さんも、新婚の奥さんの事は一目置いているように俺には思えた。


男なら誰でもあんな奥さんを抱けるものなら抱いてみたい
決して俺だけが思っていることではないように思えた。

目つきから奥さんに近づく姿からもその心の底を読み取る事ができた。

お葬式は事なく終わり、母は位牌になって六畳の間で滅多にあげてもらわない線香とロウソクに見守られながら時を重ねていた。

「ピンポン」
チャイムが鳴り俺は何事かと慌てて玄関に向かうと、何とあの新婚さんの奥さんがこわばった顔でモニターに映っている。

俺は手に汗を感じながらドアを開けると、

「あぁこの度は大変でしたね。」
「はい、ありがとうございます。随分お世話になり母も幸せな人世だったと思っています。」
「そうですか、気を落とさずに・・・」
「はいありがとうございます。
「それでどうもわたしん家は、回覧板が一番最後でお宅さまが一番のようで、それでお持ちするように言われまして、いつも主人がしているのですが」

「そうでしたか、俺んちも母がいつもしていましたからわからずに・・・これから大変です。」

「お互い様です。みなさんいい人で・・・」

「そうですね・・・」

「ではお渡ししておきます。」

「ご苦労様でした。それにまた落ち着いたなら朝には奥さんの笑顔に出会えますね・・・」

そう言って俺は笑った

奥さんもまんざらではない顔で軽く頷いた。
俺は独り暮らしになった。

三十三歳になった事も確かで、仕事場では係長の職にも就いていて充実した毎日を重ねていた。

仕事では何一つ不自由な思いはなかったが、男としても社会人としても殺風景な毎日の繰り返しである事は言うまでもなく、
いくらあの新婚の奥さんと朝笑顔で挨拶をしたとしても、それは何ら意味のないものであるとなど誰でもわかっている。

 ところがそれから母親の四十九日になり、親戚の人たちから世話をしてあげるから世間並みに四十九日をほどなくしなさいと催促され、俺は言われるがままに準備をした。


さほど親しくない和尚にも助言を頂き、無事法事を済ませ母は速やかに成仏する事となった。


その夜、
我が家はロウソクの火が原因であったのか、それとも日ごろから使っていなかったコンセントに不具合があったのか、仏様を祭っていた部屋から火が出て俺は気疲れをしていた上にお酒を飲んでいた事も手伝って

気が付いた時には猛火になっていて窓から飛び出して植木に飛びつき命拾いをして俺は何とか助かったが、
飛んだ災難で在った。
家はほぼ全焼して俺は路頭に迷うこととなった。


 それから僅かであったが火災保険金もおり、アパートで暮らし始めたわけであるが、変な噂が我が自治会で飛び交っている事を知る。

「あの火事って本当に失火?」
であった。
「息子が保険金目当てでは?」
であった。


 俺はその噂がおふくろを付け回していた人以外に、どこから発生したのかわからなかったが、

その噂に精神的に参っていた事は事実で、母を失い、火事が起こってからは、何か心の支えを全て失った気になり、毎日飲みに行ったりパチンコに言ったり、気を紛らわしていた事は確かであった。


つまり遊び癖が付いたように人には見えたらしくて、それがお金目当ての放火ではないかとあらぬ噂を口にする輩が生まれた様である。


 人の悪口で、もっともらしく思う内容だと早く流布する事は当たり前で、俺は世間のいいターゲットになり、酒のつまみにされていたようである。



 俺が会社を辞める決心をしたのはそれから左程遠くなかった。

新婚さんの奥さんの事も忘れていき、俺が置かれている立場は、世間の厳しさに晒されながらの毎日であったので、無実で在ったにも関わらず世間の無責任な噂に引き回される結果となった。



それから俺は焼け残った土地を不動産屋に処分してもらい、まとまったお金を掴む事が出来たが、
母のお墓には四十九日に親戚の方と行ってから行く事もなく、草さえも生えているようにも思えたが、それ以上の気持ちもなく時は過ぎていった。




 独り暮らしの小さな部屋で新しい仕事に就く事もなく、毎日を過ごしていた俺は、あの奥さんの事が気になってきて、思いついたように突然三十三年間暮らした故郷へ車を走らせていた。


 近づけば近づくほど心が重くなり、途中でひき返そうかと思った時、そこは産婦人科病院が国道の傍にある場所で、ひき返すならこの駐車場を利用して回ればいい。

そう思った時、病院の玄関からあの新婚の奥さんが出てきたのである。

俺は声を掛けるべきかとはっと思ったが、しかし俺は変な噂が出ている人物である事は間違いなく
それでも奥さんの顔を見つめてしまって、ハンドルを持つ手が固まってしまった。

「あぁ田所さんですね?お久しぶりです。どうしてここに?」
「いえ、お久しぶりです。いやぁ走っている時に忘れ物に気が付いて」
「そうですか?ではどちらへ?」
「引き返します。左に」

俺はそう言ったが、
「では反対ですね・・・」
残念そうに奥さんは小さくそう言った。

「奥さん、知らない方ではないですし、お役に立てるものならお送りしますよ。おめでたなのでしょう?」

「いえ、構いません。お忙しいのでしょう?早く引き返さないと忘れ物を取りに」
「いえ、構いません。明日にします。だからこれから奥さんを」
「そうですか・・・助かります。」
「じゃぁ乗ってください。」



奥さんを乗せて俺は車を走らせた。
奥さんはそれから何も話さず時折涙ぐんでいるような仕草で俯いて咳込んだ。

それから驚いた事に奥さんの口から開き直ったように一言
「主人の名誉のために言いたくはないですが残念です。まいったわ。」
そう言ったのだ。

俺は奥さんが産婦人科の前で偶々車に乗せたから、てっきりおめでただろうと勘繰ったが、今のセリフから、決してそうではなく真逆で在った事がすぐにわかった。

そして旦那に原因がある事もその一言で分かった。

奥さんはその事で俺にそれ以上の事を言う事はなかったのは、やはり喉から出そうなセリフで在ったとしても、俺なんかに言うべき事ではないと思っていて、それがまさに旦那さんに対する優しさで在ったように思えた。

俺は奥さんが今とても辛い思いの中で時間を重ねていると思い、
「奥さんこんな俺の車によく乗ってくださいましたね、こんな俺に声かけてくださってうれしいでした。

あの病院で、あの病院の駐車場でUターンしたのは、俺自分の生まれた所に行きたくなって来たものの、何だか変な噂に苦しめられたから、次第に辛くなってきて・・・それであの場所で、


だから急ぎの用があったのでも、忘れ物をしたのでもなく、覚えのない事で噂になり、あの街から出て行く事になって、仕事も辞める羽目になり。

でも俺何も噂になるような事はしていませんから、」

「ええ、それはわかっていますよ. 毎朝私に挨拶をしてくださったあなたには悪い事など出来ないと私は思っていましたよ。
主人にもそんな変な事をする悪い人ではないと強く言った事がありますよ。

主人も朝出て行ってから自治会の事などわかりっこないですからね。でも集会なんかで色々耳に入るのでしょう。良からぬ事まで」

「それで俺はどんどんと追い詰められて行くのでしょうね。」
「でも気になさらないほど」
「奥さんも、いつまでも明るい奥さんでいててください。」
「ええ、・・・・今日ね!病院で・・・」
「いえ、俺なんかに話さなくってもいいでしょう。聞かないでおきます。」
「そうね、夜に主人に・・・」
「ええ、そうしてください。奥さんが辛い話をすれば俺も辛くなるから。」
「優しいのね。あなたは」



それから二人とも黙ってしまった。
暗黙の了解と言うのか、それが何よりであると共に思ったのである。

奥さんは俺の車から降りながら、
「またどこかでお会い出来たらいいですね。」と言い、あの毎朝俺に見せてくれた笑顔になった。

 俺はハンドルを持つ手の平に汗が滲んでいるのを感じながら車を走らせていた。

俺は引き返しながら慌てて車を止め、奥さんが後ろ座席に残していったあの香りを嗅ぐようにしながら、その残り香に鼻を沈め、俺は満たされた心を感じていた。

アパートへ戻った俺は、止む事ない奥さんのあの笑顔を思い出し、余韻にしたりながら、
「あんな人と俺は生涯出会う事はないだろうか・・・当然深い関係になる事など考えられないなぁ・・・・」と半ば諦めながらも僅かな可能性を探していた。


あんな奥さんと、もし良い仲になれるとしたなら、それは誘拐でもしないと無理だろうな
そんな事でもしないと俺では・・・俺では無理・・・・絶対無理!


 自宅に火をつけたまで言われた俺なんか、所詮真面目に生きていたとしてもたいして結果は出ないだろう。あの噂は今も続いているかも知れない。

ならば俺に出来る事って何だろう?

あんな奥さんと毎日暮らせたなら・・・・暮らしたいな・・・・それはやはり俺では無理か!

 
半ば冗談のように俺は夢物語を頭で走馬灯のように描きながら、くるくると何時までもその思いが回っていた。



 ところがそんな毎日を過ごしていたとき、ある事件が起こった。

少女を監禁して十三年ぶりに犯人が逮捕されたと言うニュースで在った。

その時俺は不思議な光景を見る事となった。
少女は誘拐されたにもかかわらず、解放されてから犯人の事を憎んでいないと言ったその言葉に驚いた事で在った。


その言葉が俺にある可能性を見出す結果となった。

その事件がその後どのようになって行ったのかは知らないが、俺にはある思いがふつふつと沸いてきた事は間違いなかった。


それはあの奥さん、つまり新婚で我が家の近くに引っ越してきた若夫婦の事である。

 
 奥さんが俺のような者にも丁寧に挨拶をしてくれ、やがて笑顔で俺を見送ってくれる事もあり、
俺はその奥さんの事が気になって、朝の食事もしっかり取りながら、時間を見計らって、奥さんが旦那さんを見送った直ぐ後に、俺も彼女の家の前を通り軽く挨拶を交わし、
奥さんの堪らなく綺麗なその顔を見届けるのが俺の日課の始まりで一番大事な出来事であった。


 奥さんは旦那さんのものであるという概念を次第に忘れるように努めていて、

それはあの産婦人科で奥さんが漏らした一言から、俺はあってはならない奥さんに対する思いを心で形づけていた。

奥さんをこの手で誘拐して、俺との間に子供が出来たなら、奥さんはどんな心境になるだろうか? 奥さんは大の子供好きであると亡くなった母親が誰かに聞いたと生前言っていた。


 「旦那さんの名誉のために・・・ざんねんだわ」と、あの時言った言葉が全てなら、今もその気持ちにブレがないなら、奥さんは離婚も考えただろうと俺には思えた。

女はそれが当たり前で、出来ればそうありたいと思うだろう。

まるで俺の心の中で奥さんが今以上の幸せになれるのではないかと考えだした事が恐ろしくさえあった。


 何と俺は身勝手な男になったのだろう。
もしかして俺は自分ではわからなくとも、自宅に放火して火災保険を狙ったとうわさされたが
事実ではないのだが、俺ってそのように思わせる人間かも知れない。 もし俺が清廉潔白を醸し出している男なら、
「あの人が自宅に放火?まさか・・・そんな事言ったらあの人可哀想だよ」

その様に言われると思う。
だから俺にはだらしなさがあるのか、それとも計算高い所があるのか
人間として許されないものが潜んでいるかも知れない。


結果は会社も辞め、挙句の果てに自宅の跡地も売っぱらい、その土地は母が若くして亡くなった親父の保険金と保険外交員で頑張って買った土地で、形見でもあった筈が、俺はその母の苦労をわかりつつあの土地を売ってしまった。

だから俺は出来の悪い人間かも知れない。

そんな事を考えている内に、俺は止めるものもなく独り相撲をするように、奥さんとの卑猥なこれからを考えるようになっていった。





それから間もなく俺は奥さんの事を調べるような事をしていた。

「あの奥さんの事を調べてください。出来ればとんでもない秘密がないかとか?勿論結婚するまでの事を?」

そんな事を探偵に頼んでいた。

「お答えします。大学時代の友達に聞きました。でも今は疎遠になっていて、でも奥さんの事はと言うより、奥さんがまだ娘時代の事で色々わかりました。

旦那さんとはとても幸せに暮らしています。ただ奥さんはお子さんがとてもほしいらしく、どうも旦那さんに原因があるようで、一時奥さんがその歯がゆさを漏らしていて荒れた時期もあったようです。



今は諦めた様で、旦那さんともとても仲がよく愛し合っているようで何ら波風が立っていない夫婦のようです。

 ただ奥さんが娘時代は、今は疎遠になっているその人が言うには、

どうも彼女と奥さんは同じ人物を好きになり、そんな事から疎遠になったようでですから、これからの話には嘘偽りがないと私には思えます。


 奥さんと彼女は同じ人物を好きになり、元々彼女の恋人だった筈が、友達の奥さんに寝取られた格好になり
奥さんはその人の子供まで作ってしまったようで、その勢いにはかなわなかったらしいです。

 彼女は奥さんの激しすぎる態度に後ずさりする格好になり、身を引いたようです。
ところが奥さんがどれだけ激しくその人を愛していたかわわかりませんが、身ごもったにもかかわらず、奥さんは躊躇い傷を手首に・・・そんな辛い思いをさせられたようです。


 奥さんは相当愛していたようで命を絶ってまで思い詰めていて、それは大変で在ったと別な友達から噂で聞いたようです。


「罰が当たったのよ。あなたの彼氏を横取りするようなことするから」
別な友達に慰められた事があったと笑いながら話してくれました。



「それから彼女は今の旦那さんと結婚するまでにどのような経緯があったのでしょうか?」

「それはまだこれから調べますが、奥さんにとって大事な経験をされた時期が
好きな男の子供まで身ごもったにもかかわらず、捨てられた過去があり、そして手首にためらい傷を作った現実があり、

今は幸せに暮らしているという現実があり、独りの女の出来事としては、追及するのはこれで十分ではないでしょうか?

あなたが今何を目的に調べられているのかは私にはわかりませんが、一人の女性がいろんな事があり、今幸せに暮らしているって事で、それでいいのではないのでしょうか?」

「わかりました。ではこれで終わりにします。それでこれまで調べて頂いた事に関して一切事実を消去してください。」
「それは?どうして?」

「ですから、私があなたに奥さんの素行や過去の調査をお願いした事を無かったことにしてください。
勿論調査料はお支払いします。でも領収書の作成もメモ書きでさえ一切しないで下さい。
全く無かった事に、お分かりですね。存在しなかったことに」

「ええ、いいですよ、お約束します。」
「また公言される事も一切無いように」
「わかりました」




探偵は帰って行った。
まさかあの奥さんにそんな過去があったとは

俺は何度も疑っていた。あのさわやかな笑顔 もしあの探偵の話が事実なら、奥さんは飛んだ得体の知れない女なのか?奥深い女の性があるのか 俺は探偵の言葉を繰り返し思い出していた。

俺が探偵に公言してはいけないと固く約束したその裏には、当然誰にも言えない大人げない思惑があった。

あの奥さんを俺の手で抱きしめる事がもし可能なら、それは監禁する以外にないとそれだけが頭を埋め尽くしていた。


 あの美貌、あの透き通ったような笑顔、俺程度の男には叶わない対象で在り誘拐し監禁する以外に、夢は満たされないだろうと当たり前のように考えていた。



それを実行出来るかは俺次第で在った。


そして実行したいが為に、俺は彼女の過去を調べ始めていた。そして知った思わぬ過去に俺は今戸惑っている。

それで俺は覆いかぶさった彼女の処遇をこれからどうすれば良いのかと頭を抱えて対処方法を考えている。

ご苦労な事だ。

それが罪であるとか、悪い事であるとか、そんな考えよりむしろ俺は彼女と一つ屋根の下で肌擦り合い、汗を一杯かき恍惚の世界に陥りたいと思うようになって行くのを止める事が出来なかった。


 やがて俺は警察に誘拐監禁の罪でお縄になるかも知れないが、それまでに俺は不可能である筈の彼女と肌擦りあい汗を一杯流して、

夢中で抱き合う日々を何日も重ねられる・・・この現実に俺は果たして躊躇する事など必要だろうか?


全く要らない。
俺は彼女と、俺の言うがままに束縛の中で、女として喜びを感じ恍惚を感じ、オルガスムを全うして、更に女として身籠る事さえ出来るのだから、

それが彼女にとって俺を攻め続け、俺を殺したくなる対象になるだろうか?

寧ろ彼女は若かりし頃に子供を身籠り、だけど男が他の女にうつつを抜かし、結果捨てられた、友達の彼氏を奪ったにも関わらず、彼女も捨てられる運命に神様がお仕置きをした。

友達の彼氏を奪い子供まで作ってねじ伏せた積りで在ったが・・・



それで過去を忘れ清算した積りであって、今回の結婚は彼女が幸せになれた最高の相手で在った。

財力もあり、父譲りの会社を引き継いだ若社長と言う名の旦那で在り、何一つ不自由の無い奥さんの将来で在った。


だけど神様は黙っていなかった。

奥さんは旦那さんが種無しの男である事など考えもしなかった。
だが現実は子供が生まれてくれる事を当たり前の様に考えていた奥さんにとって、思いがけない試練に出くわす事となり、忘れていた過去がその時になり蘇ることになったのである。


 あの産婦人科の駐車場で俺を見つけて送らせて貰ったあの日が、正に奥さんに宿命を神様が与えた日でもあった。


「諦めてください。これから出来る限りの方法をやってみますが。、奥さんの夢を叶えられるものなら悔いの残らないように頑張ってみます。」


医者がそう言ったか俺にはわからないが、
「主人の名誉のために・・・・残念だわ。」
そう言って黙ってしまった奥さんのあの物悲しそうなセリフをはっきり覚えてる俺は、奥さんの一人の女としての運命のようなものが悲しくも痛々しく感じてきた。

 探偵が帰ってから何日も過ぎていたが、俺はそれからどのような事を考えていたかを言えば、許されない方角に邁進して行った。



奥さんを誘拐監禁、それが奥さんの為にも最良の道だ!
奥さんが本当の幸せを掴むには今の旦那では絶対無理だ!
奥さんの人生に子供を授からない生き方などしてはいけない!

若かりし頃に堕胎した罪を背負ったままで生き続けて、人生を閉じるなんてあまりにも残酷過ぎる。

奥さんはもう一度子を宿し、女の喜びを全身で感じてこそ人生
俺の思いは本当は神様のお告げ、神様の志し


俺の思いはどんどんと矢の如く進んでいく。
そこに罪とは何かとか、俺の考えが間違っているなどとは、微塵とも思わない。
 
誘拐、監禁、飼育が俺に与えられた唯一の道、神様が唱えてくれる一番正しい道



俺は毎日究めて陰湿な事を考えながら月日を重ねていた。



そして俺はある女性の偽名を使って彼女に手紙を出すことにした。

「奥さん、あなた方ご夫婦の事をいろいろお聞きしています。美容院でも聞かせてもらいました。

何故なら、それは私が信用のおける人物だからです。

私があなた方ご夫妻の事を親身になって考える人物だからです。
それをまずお分かりください。

私は奥さんがお子さんに恵まれない事で随分悩んでおられ、また最善を尽くされている事も承知しています。

それでも思うような結果に繋がっていない事もお聞きしています。


そこで納得いくまでご努力される事をお勧めしますが、それでも思いが叶わない時は私をご利用ください

私は奥さんのような立場の方の手助けを専門にしてる言わば世話人です。


勿論仲人のようにお金などいただきません。
この世に生を受けたからには誰もが幸せに成る権利があるのです。母親にどのような事情があるとしても子には関係のない事。


でもその子でさえも産む事が出来ないならそれは悲しい事。

ただ、だからと言って神様は人を平等には作っていないようで、
生まれながらにして手の無い子もおれば、脚が不自由な子もおれば、目の見えない子もおり、当然健康で在ったり、美人に生まれる子もおり、千差万別なのが人の世なのです。


前置きが長くなりました。

まずあなたの名誉のために、この手紙を読み終え不必要と思われるなら切り刻んで捨ててください。

でもご興味があるなら大事にしまっておいてください。
只お願いがあります。
旦那さんにも今の段階では見せないで下さい。旦那さんを傷つけてはいけませんから


それで奥さんが興味のある話だと思うなら大事に扱ってください。



実はまだこの世に生を受けていない子供がいます。
妊婦さんのお腹の中ですくすくと育っています。

妊婦さんは、
ある大学の大学院生で結婚を前提にお付き合いをしていましたが、相手の男性は外国人で東洋人だから日本人と何ら変わりのない風貌で、おそらく出来てくる子も日本人と思っても違和感の無い子供さんが生まれてくるでしょう。



 男の方も立派な方で大学の研究室でおられましたが、お父上が反社会的な活動をしていたとかで警察に逮捕され、息子さんは一目散に帰ってしまい、

それからは連絡すら無いようで、次第にお若い二人だから熱も冷めて、でもお腹は大きくなっておろせなくなり今に至っているのです。


 お子さんが産まれれば施設に預けたいと言い出し、親御さんも大反対で、
若い二人だからドライって言うか、割り切ってって言うか、
お子さんには関係ない話ですが、何方かあの子に手を差し伸べて下さる方がいないかと考える次第です。


お子さんの事をどんな事があっても愛して下さる人でないと、中々お腹を痛めていない方にとって責任や覚悟もいる話です。


兎に角切羽詰まった真面目な話ですから、ご興味があれば真剣にお考え下さい。

あなたがその気に成られて養子としてお子にされる意志があるなら、私は全面的にご協力させていただきます。


お子さんは来年2月に生まれる予定です。
それまでに決心していただけたなら、きちんと手続きをさせていただきます。


 同封の返信封筒にお気持ちをお書きの上投函してください。

郵便局留め置きにさせていただきます。何故なら向こうさんのプライバシーもありますから
また深く調べたりはしないで下さい。あくまで善意でしている事ですから


うまく運べば来年の二月に、あなた方ご夫妻にお子さんが誕生します。


それを願うか願わないかは、あなたの心の中にあるのです。

私はただのキューピット ボランティアです。 

お子さんは生まれた時はみんな真っ白 みんな幸せに生まれてくるのです。
だからもし幸せに生まれる事が許されないなら、私たちで幸せにしてあげるのが大人の役目と考えます。

私は多くの方に幸せになってもらいたいから。


あなたの勇気ある心温まる決断をお待ちしています。






 俺はそのような手紙を書き適当な名で郵便局留めで手紙を出した。

それから暫くの間に手紙が返信されてきて、驚く間もなく次の手を打った。


「あなたの勇気ある温かいお気持ちに感謝いたします。
これでかもすれば一人の幼子に明るい未来が開けるかもしれません。

生まれながらにして不幸な生い立ちで在るなどとは、誰しも望む事ではなく、出来れば誰もが幸せで在らなければなりません。


あなたの勇気は間違いなく一人の幼子の未来に光を当て、間違いなく幸せな道を歩む事になるでしょう。

 ただこの話は絶対誰にも話さないで下さい。
まずあなたがお子さんを抱きしめてから、心に覚悟や自信を持たれてからにしてください。

旦那さんを説得するのはそれからでいいでしょう。お子さんの事は誰よりもあなたが一番気にされている事だから、ただ今の時点では、まずあなたの心が何より大事だと考えます。


もうすぐ秋になり涼しくなってきます。
私はあなたの存在を向こうさんに話して間違っても今の気持ちに変わりがないかを確かめておきます。

お国へ帰った男の方とは一切連絡は無いようで、今さら電話が掛かってきても気持ちは変わらない事もしっかり確かめてあります。


では秋になればまたご連絡いたします。



 それから秋になり、俺は心に秘めた計画を実行するがために隠れ家を探し、それとは別に彼女を監禁して強制的に住む家を探していた。

外壁が丈夫で外に音の漏れないプライベートがしっかり守られた角の部屋を探していた。そして見つけた。

 その部屋で彼女を隔離して俺との生活が始まるのである。


 さるぐつわ、両手も縛らなければならない、足首にも錠をかけ、自由を奪い強制的に俺の支配のもとで生きなけらばならない。


そんな事俺に果たして出来るだろうか・・・
と、思う事もあったが、それより俺は、そんな風になっていく彼女の姿を想像するだけで興奮してくるのであった。


 俺は借りたばかりの部屋で体を横たえてズボンのチャックを下げ、彼女がこの部屋のこの場所で体をくねらせ、俺のなすがままにインサートされ、悶えている姿を想像しながら一人エッチをしている。

おめでたい話だけど俺は真剣であるのか、息遣いたるや尋常でない。
「奥さん、奥さんを狂わせて見せるから、待っていてください。」



 秋になり彼女から手紙が来て、打ち合わせをする事にしてある田舎町へ呼び出した。

近くに海辺があり、閑静と言うか物静かな田舎町で在ったが、俺は思いつくようにその場所を選んだ。空き家で在っが大家さんから短期間借りることにした。

 彼女は俺が言っていたように誰にも告げる事なく訪ねてきた。
俺は老人に扮して、しかも薄い色のついたサングラスをかけ、白内障で困っていると口にして彼女を迎えた。

表札も手紙の名前と同じにして、岡田正二、岡田ヌイと書いた表札を掲げた


「ごめんください。」
「あぁあなたはお子さんの事で・・・・・それでしたら今家内は出かけており、暫くすると帰って来ますから上がってお待ちください。私は詳しくは知りませんが、家内がいろいろ慈善事業をしているみたいで」

「ええ、それでお世話になるかも知れません。ご厚意に甘えさせて貰おうと」
「そうですか、兎に角お上がりください。」
「はいありがとうございます。」

「何度か同じような話を家内はさせてもらっていて、これまでにもお子さんが幸せになってもらっているようで」
「そうでしょうね・・・」

「ではお茶でも」
「ありがとうございます」



その後奥さんは俺が淹れたお茶で深い眠りについた。

その空き家の支払いは前払いしていて、すぐに返し、記憶に残らない内に俺と奥さんはその地を去った。


「これで証拠はない。表札もナンバープレートも手作り。あの田舎町で暮らした老人は、まさか俺で在ったとは大家だってわからないはず。

ましてあの夜に俺は奥さんを担いで車に乗せ、あの場所から600キロも離れたこの姫路の街の頑丈なマンションで暮らしている事などわかるわけがない。

手錠にさるぐつわ、それに脚の錠、どれだけ奥さんが喚いても絶対外へは漏れない。




 やがて奥さんが目を覚まして驚きの態度を表したのは、夜も開けかけた頃に成ってからであった。

「ここはどこですか?これって?どうしたの?どうしてこんな事を?わたし・・・どうして?何がおこっているのですか?こんな手錠を?意味わかりません?どうしたのですか?」

「奥さん気が付きましたか?」
「どうして?どうして?どうして私がこんな目に?」

「奥さん、あなたはお子さんの事で私を訪ねて来られましたね?」

「いえ、私が訪ねたのは女性の方で、あなたの奥さんですね?そうでしょう?ここは田舎町で漁村で・・・そうでしょう?あなたは岡田さんなのでしょう?」

「いえ違います。ここは漁村でも田舎町でもありません。」

「言っている意味わかりません。それにどうして私はこんな格好をさせられているのですか?」

「ですからあなたは私の手によって監禁されたのです。誘拐と言いましょうか」
「誘拐?監禁?言っている意味がわかりません。いったいあなたは誰です?」

「奥さん、俺奥さんの事が大好きでした。毎朝奥さんの笑顔を見るだけで幸せでした。だから
俺旦那さんの事が羨ましくて羨ましくて、」

「・・・・?」

「でも旦那さんはお父さん譲りの会社を引き継ぐ若社長、俺なんかと月とスッポンだから悔しいでしたが、叶わぬ相手だと諦めました。


 ただ奥さんがあの時愚痴を零しましたね。あの産婦人科の病院を出て偶々俺と出会った時に、俺の車に乗り、ぽつんと一言旦那さんの名誉のために言いたくないが残念だわって」

「あなたはまさか?」


「あれって旦那さんが種無しで在った事を言っていたのでしょう。腹立ちまぎれに、まさかだけど俺なんかに漏らしたわけですね。」

「待って、ではあなたは隣組で在った田所さん?田所さんなの?」
「はい、そうです」

「でもあの方はまだ三十代半ばだったはず。変な冗談言わないで下さい」
「いえあの時の俺がこの姿です。」



 俺は化粧を取り髪の毛も濡れタオルで拭き、あの時の姿に戻ったのを見て

「どうして?どうしてあなたが?何か目的があってこんな事を?」
「夢のためでしょうね」
「夢?まさかあなたはこんな事をして、間違いなく犯罪を犯しているのですよ」
「わかっていますよそんな事は」

「ではなぜ?あなたお勤めだった頃は役職についていた筈、でもいろいろ噂になることがあって、出ていかれた時も気の毒な方って主人と二人で話し合ったりした事もありましたよ。

それが今なぜこんな事を、私を羽交い絞めにしてこれから私をどうする気なのですか?」
「だから俺夢を叶えられればいいと思っています。」
「だから夢って?」
「はっきり言いますと、俺あなたを毎朝見ていてこんな女性を抱けたら最高だろうなといつも考えました。

それが俺の夢だったのです。
でも俺なんかあなたは見向きのしない男だから、
それがわかるだけに悔しくて、俺いつの間にか奥さんの事を誘拐監禁してでも俺と深い関係になりたいなと思うようになり、それで昨日実行したわけです。」

「でも私には主人が居ます。大切な人です。とても愛しています。だからこの手錠を外して私を帰してください。私は主人のものです。誰よりも大事な人です。」

「奥さん、わかりました。でも奥さん、奥さんはその気持ちも次第に薄れていくように俺には思います。
何故なら・・・・わかりますね・・・・」

俺は奥さんの口に猿ぐつわを再びしっかりして、その手で奥さんの下半身に手を伸ばした。

「やめてください」
「やめてください」
「やめてください」

俺の手は奥さんの下半身に容赦なく忍び寄りまさぐり続けた。

「やめてください」

 俺は決して止め様とはしなかった。びしょびしょに濡れた奥さんの下半身は次第に抵抗をしなくなり、その脚はやや開き気味になってきた。


「どうして?どうして私を?」
「奥さんがあまりにも綺麗で俺の心が吸い込まれるような毎朝だったから、俺奥さんのあの笑顔を思い出しながら、いつかこの手で抱いてみたいと一人エッチをした事も何度もありました。


 それが今こうして奥さんの傍で俺の思うがままに、奥さんは抵抗する事さえ出来ないでこんなに濡れて


口では精いっぱい抵抗しているように見せながら、実は俺の虜になって行くのです。」

「馬鹿な事言わないで下さい。あなたなんかに・・・」

「でも奥さん、今はそんな嫌な顔で俺を睨みますが、その顔もやがて俺の思うがままの顔に変わっていくと思いますよ。」

「そんな事ありません。私は主人のものです。愛しているのは主人だけです。どんな事されても私は主人だけを愛しています。舌を切って死にますよ。それでもかまいませんか?」


「奥さん、奥さんは嘘を言っている。旦那さんに抱かれながら他の人の事を心で思ったりした事は無かったですか?」

「そんな事ありません、私は主人の事だけを考えていました。変な事言わないで下さい」

 
 俺は奥さんの手首を鷲掴みにしてファンデーションでしっかり塗られたその手首を擦りながら、

奥さん、あなたは旦那さんの事が全てですと言いながら、実は大学の時知り合った元カレの事を思い出していませんでしたか?

あなたはその方に、例え振られた現実があったとしても一番の思い出で在った筈、
一番嫌な思い出だったかも知れないが、それでもあなたはその方を誰よりも愛してやまなかった。

だから命を絶ってでもその人を忘れたかった。辛かった。辛くて辛くて堪らなかった。」

「どうして?どうして、あなたは私のそんな事まで?」
「俺あなたを誘拐しようと考えたとき、まずあなたのこれまでの生き方を知りたかった。
だから俺あなたの事を探偵社にお願いして、娘時代のあなたの事を調べてもらった。

この話の出処はどこで在るか、あなたなら直ぐに判るはず。人って裏切られたその時
それが男で在っても女であっても、決して忘れる事のできない出来事になる事はあなたなら十分わかるでしょう。」

「・・・・・」

「どうされましたか?奥さん。俺の言っている事理解できますね?」
「・・・・・」

「ですからあなたが先ほどから声を大にして言われている{私は主人のもの}って言い方に間違いがないのか知りたいです。

 女性は過去の事なんか忘れているのでしょうか?良くそのように聞きます。でもあなたはおおよその意見と同じでは無いはず。

この傷跡を毎日丁寧の塗り消しているのですから、」

「もういいでしょう。止めてください。
私にはわからないです。
それでこれからわたしをどのようにするおつもりですか?」

「ええ、あなたをこれから飼育します。」
「飼育?何様のつもりなのですか?」

「だから今の立場は、俺が王様であなたは奴隷ってところですね。
逃げ隠れなんか出来ない。それにあなたが万が一舌でも噛んで死ぬ気なら、それも仕方ない事。でもあなたをそんなにはさせないです。

何故ならあなたは、これから毎日毎晩片時も忘れる事なく、女であり続けるのです。
女の喜びを知り尽くすのです。奴隷として」

「馬鹿な!止めてください。変な言い方は」
「いえ、あなたは必ず俺を好きになる。少なくともあなたの体が俺をほしくなる。」


 俺はさるぐつわを外しながら彼女の唇に唇を重ねてしゃべられないようにしながら右手で下半身にその手を伸ばした。

「いや!止めてください。」

 それだけを何度か繰り返したが、彼女の体から全ての衣服が剥ぎ取られて豊かな乳房もあらわになった時に、

「うッうッ」
と、かすれた声を出した彼女は体をくねらせた。


「奥さん、奥さんはこれから毎日このように俺の手で、そして俺の何もかもを受け入れて抵抗しながら結局悶えるのですよ。恍惚に満ち溢れながら」

「ばかな!」

「殺したいですか?殺せるものなら殺したいですか?」

「ええ、すぐに殺したいわ」

「でも今奥さんの体に俺が深く侵入して、奥さんはそれを必死になって嫌い、俺を殺したく思いながら、でも快感も感じてしまうのを、奥さんはわかっているのです。
それが女である事も、だから奥さんはこの体で友達の彼氏さえ奪い、友達をねじ伏せるようにして、赤ちゃんまで作って勝ち誇ったのですね。


でもその奪った彼に捨てられ、このように手首にためらい傷まで作って抵抗したが、そんな奥さんの事が重荷になったのかも知れませんね。

 男って恩を売るような女は出来れば避けたいですからね。重たいって言うか自由が効かないっていうか、」

「やめてください。その話は」

 奥さんは目から涙を一筋流しながら俺の愛撫を受け続けた。
そして「うー」とかすかな声は出した時、俺の何もかもが奥さんの濡れたところに突き刺さるように入っていった。

「奥さん、これから毎日こんな事を朝から昼も、そして夜も深夜に至っても繰り返すのですよ。
殺したいと幾ら思っても奥さんの体は俺をほしくなってくる事は仕方のない事。

俺がもし覚せい剤でも持っていて奥さんに注射し続けたなら、奥さんはもう俺から逃げられないばかりか、俺の傍で死んで行くまで奴隷のような生き方をするでしょうね。


 でも俺はそんな事はしない。何故なら奥さんの事が大好きだから。誰よりも奥さんを幸せにしたく思っているから。

 
手紙にも書いてあったでしょう?
あなたがあの子供に関する文面に引かれて、俺の思うがままになったと思いますよ。
あなたは幸せにならないといけない。このまま赤ちゃんを知らぬままで生涯を終えてはいけない
確かそんな事を書かせて貰ったと記憶しております。


 あなたは大学の頃に犯した罪を引きずって、これまで生きてきたのかも知れない。
そして大好きな旦那さんと知り合って幸せになれたと思いきや、旦那さんが子供が出来ない事を知り、

それはかもすれば旦那さんに原因があると言うより、あなたの生きてきた道に罪があり、あなたはその宿命を背負って生きて行かなければならないと、半ば納得し諦める生活を繰り帰していた。

違いますか?

 そこで俺はあなたはこの儘ではいけないと思い、まるで関係ない俺で在ったが、あなたを幸せにできるのは俺しかいないと思い込んで、このような大胆な計画を立て、こうして思い通りの結果になり、

これからあなたが、どんな人生であるより、幸せな人生になって貰えるように努力してあなたの夢を叶えて見せます。」


「やめてください。私を解放してください。あなたは大きな罪を犯している事を何故わからないのですか?誘拐って相当大きな罪である事をわからないのですか?」

「まだそんな事を言って、もっと激しく動かします。あなたがもうどうでもよくなってくるまで」

「いやぁ止めてください。いやーいやーいやーやめてーーー」




 彼女はぐったりして俺の手枕の上で大きく息をして肩を揺らした。
その表情から決して苦痛に耐え忍んでいるような素振りは無く、ごく普通の商売女のしぐさと変わりなく、寧ろ淡々としているように俺には思えた。

何日間が過ぎ彼女は恋人ではなかったが、娼婦でもなく、人の奥さんでもなく、一人の女になっていた。


 彼女は俺が激しく腰を振り続けるその突き刺さってくる全てを、心でさえいつの間にか受け入れているように俺には思えたのは、

それは時たま腰を突く動作を止めた時も、彼女の腰が俺の体を突き上げてきたからで、それは口では拒むように言いながら、その体はすでに俺を受け入れようとしていたのである。



 まだ俺と彼女は交わって僅かなのに、案外早い内に彼女は俺のしもべになって尽くしてくれるように思えてきた。


 両手を首の後ろに回して鎖で繋いでいたから、かなり痛かったかも知れないが俺にすれば、彼女がその鎖で俺の首でも絞めるものなら、女の力と言えども命の危険に曝される事も考えられ、両足は開かなければならないから、片足だけを柱に括り付けていた。


さるぐつわくを外し、大きな声を出さない事を約束させ、俺の両ひざの上に彼女の顔を寝かせ、髪の毛を撫でながら、

「ねぇ俺を殺したい。殺したくて仕方ない?」
と、聞いてみた。

彼女は黙って何も言わず、まるで黙秘権を行使するように黙って、焦点のあわない無気力な目をした。


俺はそれでも彼女の乳首をつまみながら、彼女の顔を正面に向かせてその唇に俺の唇を重ねて軽く吸った。


「止めて」とも「嫌です」とも言わず、彼女は相変わらず無気力な表情で一点を見つめるように俺の睨む目を避け続けた。



 俺は彼女のそんな表情が色っぽく見えてきて、俺の膝から彼女の頭を座布団の上にそっと置くようにして
そして彼女の口に俺の一物を差し込むように入れようとした。


「やめてください。変な事するの。」 


彼女はそう言ったが、俺はそんな彼女の言葉を遮るように、彼女のその口に更に俺の一物をねじ込もうとした。
案外彼女は大きな口を開いて俺の何もかもを受け入れるような諦めの仕草に変わり、同時に俺はそれを動かし続けた。


ところがその彼女の目から一筋に涙が頬を伝い素早く流れた。
はっとして俺の心が立ち止まるように固まった。

「俺奥さんの事を心のどこかでも弄んでやろうと、浅ましい考えがあった。
こんな俺なんか奥さんの様なレベルの人から見れば、考えるにあらずで気に留める事などありえないはず

だから俺奥さんをこうして誘拐してでも心の半分は弄びたかった。敵を取るように弄びたかった。


 でもそれは今間違いである事に気が付いた。

俺は奥さんをどんな事があっても幸せにするべきだと思えてきた。だからもうこんな事はしなくってもいい」

「じゃぁ帰してください。私を自由にしてください。私は警察に行くかはそれはまだ考えていません。

何故なら主人に申し訳ないから。 別れ話になっても仕方ありません。こんな事されたのですから」

「いいえ奥さんはこのまま帰れません。このままで俺と何年も暮らすのです。子供も出来るでしょう。

奥さんが待ち望んだ子供もできるでしょう。

だから奥さんはこのまま俺と幸せに暮らすのです。」

「しあわせに?とんでもいない。幸せに暮らす夫婦で監禁されている夫婦がおりますか?
私は第一あなたと夫婦ではない、赤の他人なのですよ。」

「奥さん、奥さんは何もわかっていないですね。あなたは俺と一緒になってこそ幸せになる事を」
「ええ、わかりません」
「あーぁ面倒くさい奥さんだ!やっぱりさっきの言葉取り消します。
さぁ舐めてください。しっかり大きくなってくるまで。
あなたは俺の奴隷である事を忘れないで下さい。あなたの命でさえ俺の思い通りになる事をわかってください。
鎖で繋がれている犬のような立場である事をわかってください。


さぁしっかり口に咥えてしっかり動かせてください。
もう涙を流してはいけませんよ。
過去の男を思い出しながら男の一物を咥えている時に涙を流すなんて・・・笑い話ですよ。」




 それから俺と奥さんは精根尽きるまでどっぷり何度も飽きる事なくつかった。
それは男と女の単純な宴に過ぎないと俺には思えた。


奥さんは抱かれている相手が誰であっても構わないような仕草さえ飛び出し、所詮女体とはそのような作りになっているように俺には思えた。

それは当然男も同じでクライマックスを過ぎれば面倒な関係に戻るわけだから
そこでねちねちされても恩着せがましくされても、うっとうしいものである事には変わりない。



その点奥さんは何の感情も見せる事なく俺がなすままに反応していた。

嫌いな男に手加減することもなく、しつこく、しかも芯を突いて攻められれば黙っていられなくなり、例えそれが殺してしまいたい人であっても、手足を縛られている状態では何も抵抗など出来ないのである。



 奥さんはその体を持てあますようにぐったりさせ、カチンカチンと手錠をぶつけながら悔しさを堪えているような素振りをしたが、俺の心を打つものではなかった。


まだ数日前から始まったばかりの男と女の戦いで在り、両極端にある二人の感情の戦いでもあった。


 二人とも興奮していた性か、ぐっすり眠ってしまい俺も商売女と時たましっぽりする事はあったが、最近のように連日連夜とことん絡んで、何度も繰り返した事は最近なかったので、

体力も相当消耗したと思いきや、やはりそれは畑がすこぶる良かったという事もあって、何度も繰り返し出来た事からも、それは奥さんが絶品で在ったからかも知れない。


 奥さんがきれいなのはそれは顔で在り容姿である。スタイルも抜群で笑い顔の研ぎ澄まされ透き通ったその顔は、俺にはとんでもない宝石のようなものである事は間違いなかった。


 旦那さんを送り出すその姿でさえ、きちんと上品なスカートをはき、流行りの物を羽織り、抜群のスタイルで見送っていて、その姿を後ろから見ていた俺には敵わぬ人で在った事は間違いない。



 俺はそんな奥さんが慌てて出かける俺に、優しく笑顔を見せてくれるあの瞬間が、俺が毎日生きている中で一番のクライマックスで在った事は言うまでもない。

だから俺では歯が立たない奥さんとこんな事に成れたのは、そこには誘拐して監禁したからで、

そしてその行為が間違いで在り、法律に触れる行為で在ったとしても、俺には一向に構わない覚悟の行為で在った。


 朝になり奥さんは仕方ないような顔をして、以前に買ってあったラーメンを口にしていた。


「主人は間違いなく警察に保護願いと捜索を頼んでいると思うわ。罪が大きくならない内に自首されたら

こんな事していたら、あなたの人生も台無しになるじゃない。こんなバカな事してまるで病気ね。

もう私の事は放っておいて、私が不幸になろうが、あなたには関係ない話。一生子供に巡り会えなくても仕方ない事


 若いころに過ちを犯してしまい、それが神様の逆鱗に振れたとするなら、それも仕方ない事。あなたには何ら関係ない事。


私は主人と仲睦まじく暮らしていた事は、あなただってよくわかっていたはず。

でもこんな事されたから、今さら主人とよりを戻そうとは思わないけど、でも主人がこんな私でも構わないと言ってくださるなら、私は主人についていくわ。
だから私たちの事は構わないで  お願い  私をこのままそっと出ていかせて」


「奥さん、奥さんの名前を教えてください?」
「嫌よ。私を解放してくれないの?」
「奥さん名前を教えてください?」
「いやよ!」
「奥さん、これからあなたと何年間も、十年、二十年いやもっと、二人で暮らすのですよ。
子供が何人出来るかも知れないし」

「何を言っているの?ばかばかしい。気でも狂ったの?」
「奥さん冗談に思えますか?あの入り口にあるのは油です。俺が万が一の事があれば、あの油をこの部屋にまき、この部屋を火の海にして終わりにします。

だからたとえ警察が来ても、あなたの旦那さんがあなたを助けに来ても、その時に俺が捕まるような事になれば、奥さんを道連れにあの油を二人でかぶって終わりにします。


言っている意味お解りですね?奥さんの置かれている立場はとても厳しい環境にあるって事ですよ。
その点をよく理解しておいてくださいね。」

「・・・・」
「奥さんあなたは手足に錠をされた人をよく見かけますか?見る事なんか無いでしょう。でもあなたはその様いされているのです。

逃げる事も許されていないし、命の保証だって俺の手にゆだねられている。
殺されるかも知れないし、
何故なら、あなたが殺したい相手だからこそ殺されるかも知れないのです。


昨日もあんなに頑張ったのに奥さんはまだ心に迷いがある。諦めていない
だからこれからまた始めようと思います。


今度は奥さんが俺の何もかもを吸い取ってください。旦那さんにした事もないような事まで頑張ってしてください。」
「嫌です。絶対嫌です。」
「奥さん、その言葉を使うのは今日限りにして貰います。それでまず奥さんの名前を言ってください。」
「さぁ早く!」
「・・・」
「言ってください。」
「瑠奈です」
「瑠奈さんですか?・・・そう言えばあなたの家の表札にその字があったように思いますね。
旦那さんは石村幸秀さんでしたね。それは手紙を出したからわかっていますが、あの時手紙の表書きに、
石村幸秀様「奥様に化粧品のご案内です」と書いたのを覚えています。

だから奥さんの名前をあの時も今も知らなかったのです。


これからあなたの事を瑠奈と呼びます。
だから従ってください。」
「・・・・」
「さぁお願いします。俺の奴が大きくなるまで頑張ってください。毎日使いっぱなしだから頑張らないと大きくならないですよ。 さぁ」


 奥さんは目に涙をうっすら浮かべながら俺のを口に含んだ。
それでも奥さんは可愛くて清楚で在った。
その仕草も絵になっていて、クチュクチュと音を立てながらの動作は、俺を奮い立たせるのに十分なしぐさで在った。

奥さん、いや瑠奈 もっと激しくやってくれ 瑠奈、もっと激しく、もっと激しくもっと」

俺は瑠奈の顔を両手で抱え込んでその唇は陰毛の中に包み込んで思いきり瑠奈の口内に射精した。

瑠奈の口から白いドロッとした液が流れ落ち、その液は瑠奈の下半身に流れ落ちた。

俺はそんな瑠奈が堪らなく可愛くなって彼女の後ろに回り、彼女を寝かせて後ろから挿入した。

それが、いやだったのか、その前に無理やりさせられた口で射精させられた事がショックだったのか、涙目は相変わらず光り続けていた。


鼻をぐずぐずさせながら彼女は俺に突き刺されながら体をくねらせた。

口で出した後で在ったから早速行く事なく、俺は彼女を前向きにさせ正常位で激しく付き続けてそのうち果てる事となった。


彼女は黙ったまま俺に何一つ口にする事もなく、まるで奴隷のように無気力になってじっとどこかを見つめている。


 まだ夜が明けて間もなくで、本来彼女は旦那さんを玄関先で見送り一日が始まっている筈であったが、今は遠い昔がそうであったかのように、彼女は全身裸で、僅かだけ下半身の傍で脱ぎ捨てられた下着が無造作にあり、されるがままに放心状態で朝を迎えている。


「どうしたの?なんだか悲しそうに見えるけど」
「当たり前です。こんな屈辱を味合わせておいて」
「殺したいくらい?」
「当然です。」
「でも瑠奈、よく考えて、またあなたは忘れている。現実の厳しさを」

「じゃぁあなたは私を幸せにしたいって何時か言った事あったけど、あの事は嘘なの?嘘を言ったのね?あれって出鱈目ね?

一体あなたは何が目的?ただ血迷っているだけの変態?

もういい加減にしてよ。こんな事するの?帰してわたしを主人のもとに帰して お願いだから」

「それは無理だって、あなたは俺に誘拐されたのだから。俺には法律なんかないんだから、あなたを誘拐して監禁してもそれは許されているわけだから」

「誰に許されているって言うの?」

「俺自身に、俺が許しているわけだから、誰が何を言っても聞き入れるわけにはいかないのだから」

「でもあなたはこんな小さな田舎町で、しかも漁村で遠くない時期に誰かに見つかるって、警察だって主人が捜索願を出している筈だから直ぐにここに来るって」


「あっ、あの漁師町?漁村?  そうだね、あなたを子供がいるから来ないかと誘って、あなたがやってきた田舎町の事だね。
今はそこにはいないんだよ。言わなかったかなぁ?」

「出鱈目言わないで、作り話はしないで。
私は漁村に行った事はっきり覚えているわ。警察だって調べればすぐにわかると思うわ。
どこかの駅のビデオにも映っていると思うわ。すぐにここへ警察がやってくるわ。」


「でもね、あの漁村からあなたは車で運ばれて遥か彼方まで来ている事を知らないから、そんな呑気な事言っているんだよ。」
「本当なの?」
「そうだよ。あの街から9時間いやもっとかな車で走ってここに来たんだよ」

「何言っているの?9時間走って?」
「そうだよ。あなたはどこに今居てるか想像さえつかないはず。あの漁村は日本海だったよね。
でも今は六百キロも離れた場所」

「六百キロ?」
「そうだよ。だから誰にもわからない場所、あなたの旦那さんは想像すら出来ない場所。警察だってこの住処を見つけるまでに早くても一年はかかると思うよ。

だからて瑠奈は潔く諦める事を俺は奨めるよ。明日にでも探してくれるなんて思っていたら疲れるから。

それって瑠奈と旦那さんが子供が出来るのは今日か明日かと待ち続けた事と同じだから。
出来ない事がわかってとても辛い思いをしただろう。 だから瑠奈は今日にでも諦めて
俺と暮らす事が絶対的な条件で、その中で瑠奈の幸せを見つける事だね。

二か月もすれば月のものが止まるかも知れない。そうなればまた新たな幸せに繋がるかも知れない。


俺の子供を産むくらいなら死んでしまいたいわ・・・・そのように考えても瑠奈の勝手 だから瑠奈が死んでも俺には止めようがない。

まして舌を噛んで死んだならどうする事も出来ない。俺の精液を飲むなんて考えもしなかった事をさせられたから死にたい。それもありだけど、でも情けなくて泣きながらでも我慢して俺を満足させてくれた。


 その手錠の鎖で首を吊ろうと思えば俺の目を盗んで実行出来るかも知れない。俺だって毎日瑠奈とセックスをして、それに興奮もして疲れていることは間違いない。だから瑠奈がその気になれば俺は瑠奈の手で命を奪われるかも知れない。



瑠奈?瑠奈が今旦那さんの元に無事に帰れたとしたら旦那さんと寝れるかな?」
「そんな話は止めて」
「無理じゃないかな?瑠奈の体はすでに俺の体液で色さえ変わってしまったと思うよ。言っている意味わかるだろう?
瑠奈が毎日のように俺に、心はともかく体を開いてきているのわかるから。瑠奈がいくら違うって言っても

女性の体ってそのようになっていると思うよ。
俺のうぬぼれかな?
瑠奈はもう旦那さんの事なんか忘れていると思うよ。旦那さんは俺ほど激しくなんかなかったはずだから、

寧ろ瑠奈が過去と比較するなら、大学時代に深い仲になった彼氏の事だろうな?その時は友達の彼氏を奪った激しさがあったと思うよ。」

「やめてください。そんな話は」
「瑠奈キスしてもいいかい?」
「いやだといえないのでしょう?」
「なら遠慮なくするから、
「・・・」

「瑠奈、今瑠奈は喉をゴクンと鳴らせたね。生唾を飲んだんだね。それって恋人同士がキスをしたときに女性がする現象なんだよ。つまり瑠奈は俺の事を好きになって来たんだよ?」
「そんな事ありません。ありえないです。」

「ここが異国の地だとしても、絶対旦那さんには想像も出来ない地であるとしても?」
「待って、わたし、今どこでいるの?」
「だから異国の地だったら?つまり外国だったら」
「そんな事絶対ないわ。私が眠ったままで外国に行けるなんてありえないから」
「そうだろうか・・・トランクに詰められて運ばれて来たとしたら・・・」
「やめてよ!そんな冗談」
「そう冗談だよ。でも旦那さんや警察が簡単には探せない事をはっきり言っておくよ。」
「ここはどこなの?」
「瑠奈が諦めるほどいいと思う所って事にしておくよ」
「・・・・・」

「わかったね?だから諦めて。
それでここで暮らす事を条件に瑠奈が楽しく生きていける様に考えて。
こうしてセックスをするにしても、感じながらしたら女性は男の快楽とは全く違うと聞いているよ。深くて
どこまでも快感で・・・・オルガスムってのもあって。だから瑠奈もそうあってくれればいいと思う。


 解るだろう?ここをこっそり出て行こうと思うものなら、その時はあの油が燃え盛り、君は炎に包まれて死んでいくんだよ。
 
 それが嫌なら俺の持っている包丁で瑠奈は八つ裂きにされ、血まみれになって気を失いながら死ぬ事になると思うよ。

でももっと瑠奈がつらい結果になるのは?
それは俺が瑠奈に飽きて、瑠奈が一人の女として全く魅力が無くなり捨てたくなった時かな?
悲しいと思うよ・・・誘拐され弄ばれ心にも体にも傷を一杯つけられ、それで、それで捨てられるなんて、女として最低だね。死んだほどましかも知れないね。

そんな日が来たら瑠奈もおしまいだね。」

「こらからわたしはどうなるの?それだけ教えて?」
「もうすぐわかるじゃない?君のお腹に異変が起これば?」
「まさか?」
「でもこんな事していたら君だって立派な過去があるのだから、妊娠する事だってありうる事わかるだろう?
ピルを隠し持っているなんて事ないだろう?君が浮気でもしていたらわからないけど」

「それで出来てしまったならどうなるの?」
「万々歳だよ。君も待望の赤ちゃんを埋める事になるわけだし、」
「いやよ、そんな事。第一好きでもない人の赤ちゃんなんか、殺したい人の赤ちゃんなんか・・・」

「そうかな?でも女性は一概にそうは言えない心を持ち合わせていると思うよ。
だから別れた男の赤ちゃんでも大事に育てるじゃない。それはお腹を痛めたという事実と、その赤ちゃんには自分の血が半分はいっているから。

ただ女性は計算深い体質。 だからその内に又こりごりの男とくっつき、先に出来た子供が邪魔になり、虐待をしてしまう。

 次にくっついた男が性が悪いって言うのが大体のところだね。事件を起こす輩は大体がそんなもの」

「随分分かった事言って」

「まぁ瑠奈俺の言う通り赤ちゃんを産んでそれから考えれば、今の旦那さんと子無しの生活を重ねている自分の姿と比較すれば。

俺は瑠奈が赤ちゃんを産んで人並に子育てして、瑠奈がもう忘れたと思っているかも知れないけど、遠い昔の過ちをここで取り帰して本当の幸せを掴んで貰いたいわけ。」
「・・・・」
「間違いだらけの考え方かも知れないけど、俺は俺なりに瑠奈を幸せにしてあげたいと思っている。
女に生まれた以上叶うものなら叶えてあげたいと。

瑠奈の家のそばを通り過ぎただけで俺心踊らせていたあの頃があったから。こんな卑怯な手を使って、ごめんな勝手な俺で」


「もう、元には戻らないわね。戻れるとしたらどちらかが殺され、どちらかが刃物を持ち、あの油に火をつけ、それが現実なのでしょう?」 

「だからその話は止めよう」
「・・・・」
「俺はまだ働いたり身元がわかるような事はしない。
土地を売ったお金、それに火災保険金もまだかなり残っている。 母親が亡くなった生命保険だって手つかずで残っている。

だから当分は働かなくっても生きていける。瑠奈にひもじい思いをさせる事はない。
だから警察がここにやってくる事もあり得ないと思って居る。

そんな事だから瑠奈も心を据えてもらいたい。
バカな事を言っているけど、それは俺だってわかっている。俺がどれだけ卑怯な根性である事もわかっている。


俺、瑠奈とこうして暮らしだして、瑠奈を思いのままに操る環境で在るけど、瑠奈はもともと俺なんかの手の届かない女性である事も重々承知だから、いつも背伸びしている自分がいて、

それが実に息苦しく感じる時もあって、激しく瑠奈を攻め続けている時なんかは自信がなくって怖くて、それで・・・」


「ねぇ何を言いたいの?」
「だから一口に言って俺高嶺の花を手に入れてしまって驚いている毎日って事だなぁ」
「でも人間なんて長く生きていればそれなりの傷も出来るし、悪い事だってしてしまう事もあると思うわ。

でもあなたが今どんな言い方をして言い訳染みた事言ったところで、もう元へは戻れないのだから
あなたの思うようにすればそれでいいのよ。」

「随分開き直って?」
「でもそうじゃない。男がこれと決めた事ならそれがどんな事であっても突き進まないと。いまさら
こんな事までしておいて、誘拐監禁なのよ 警察に捕まれば何十年もの罰を受けなければならないのよ。
今さらおかしな言い訳なんかしないで、男らしくないわ。第一めめっちいじゃない」




 瑠奈は怒るように俺に多くの言葉をかぶせてきた。
この時瑠奈は一転して開き直った姿になった事がわかった。俺はその言葉を聞きながら瑠奈って男のような気性かも知れないとその時初めて思った。



それから俺は決して弱気なところも温情味があるところも決して見せないようにして、相変わらず瑠奈に大事なところを舐めさせ十分固くなったところで彼女の中へ入れ続けた。


 瑠奈は日を追うごとに俺を殺してしまいたいと、心で密かに思っている根性女であるとはまるで思わない間柄になって行っているようい思えていた。


 瑠奈はすっかり恋人に抱かれる女の心境と思われても、それは手の指の動きからでも、腰の動かし方からでも、吸い付くようにして俺の一物をくわえるその速さからでも、決して嫌々している様には思えなかった。


瞬く間に二か月が過ぎ三か月が過ぎ、瑠奈は過ぎた事を彼女の口から話す事も一切なくなり、むしろ俺の求めに対してそれを待っているかのような態度に成ってきてのを俺にはわかった。




そして瑠奈はついに口でくわえるのを躊躇った。
「嫌なの?毎日してくれているじゃない?」
「でも、でも・・・」
「むかつくんだ?」
「私の口から言いたくないわ。でももう嫌こんな事毎日させられて」
「そうじゃなく妊娠しているんだろう?」
「わからない・・・」
「いや解っている筈、妊娠しているんだろう?」
「違うわ」
「じゃぁなめて、口いっぱいに含んで、それで今日は口で全部して、激しくやって」
「馬鹿な事言わないで、絶対嫌よ!」
「なぁ瑠奈、心で思っている事言ったら、妊娠したって、これで私も女として幸せになれるかも知れないって、
殺したい男だけど、殺してしまいたい男の子だけど、悔しくって仕方ないけど
本当の気持ちはそうじゃないの?」

「やめてよ!そんなの絶対嫌よ、ちくしょう!」
「瑠奈、今君は一人の女になろうとしているんだよ。理屈に合わないけど、理不尽だけど、嫌で堪らないだろうけど、でも立派な女になれるんだよ。


なぁ瑠奈、君に聞くけど、おなかの赤ちゃんも殺してしまいたい?
俺の子なんか産みたくない?大学時代の時のようにお腹の子をおろしたい。折角授かった命を終らせたい?」

「やめてください。やめてください。どうして私を苦しめるの? 家に帰して、もう終わりにしてお願い」
「瑠奈、今さらそんな事言っても戻れないから、あの油のタンクをここに持ってきて君に掛けようか
全身油だらけになって火がついて、それで苦しみながらお腹を抱えて死んでいく
それでいいかな?」
「やめて」
「妊娠している事間違いないんだね?」
「ええ、間違いないと思うわ」
「素直に喜べない?」
「喜ぶ?何故?」
「でも君のお腹で育っているんだよ」
「だから?」
「瑠奈諄い事言わないで、もし君がこの子を始末したいならそれでもいい。俺の役目はそこで終わる事になるけど、
でももし瑠奈がこの子を始末するなら俺は瑠奈を始末するから。二人ともいなくなってもいいから。だから俺の心の内も忘れないで。俺はね瑠奈が女として幸せになってほしかったから、こんな事をしたんだから、何十年も豚箱に入れられる事も覚悟して」

「わかりました」






それから瑠奈のお腹は次第に大きくなっていき、俺は一度は通らなければならない道を歩む事にした。


「今日の診察の受付は終了いたしました。また明日お越しください。お時間はその表をご覧いただいて」
「いえ、わざわざ人目を避けてお願いがあり、
実は嫁が妊娠して」
「そうですか、おめでとうございます。」
「ええ、おめでたい話でありますが、実は嫁は旦那さんが居りまして、それでご相談をと」
「お待ちください。先生にお聞きいたします。」
「・・・・」
「お入りください。先生がお聞きすると」
「はいありがとうございます。」


恰幅のある先生の前に通され、
「それでいかがいたしました。」
「ですから嫁が身ごもって、それで正直申し上げれば、嫁は旦那さんがいてる身で、そのうえおそらく捜索願いが出回っていると思われます。

そんな事で決して表立っては事を進められなくて、ご相談申し上げた次第です。もし相談に乗っていただけない時は嫁の言うように自力で、

そんな事で本来連れてきて診て頂くのが筋かと思いますが、私たちの希望としては臨月になってから、いよいよその時が来たなら嫁を連れてきて見届けていただきたく考えています。

 費用は高くつく事は承知で在ります。ご無礼である事も承知で在りますが、

嫁が若かりし頃につらい思いをした事がいまだに尾を引いていて、それを今回の出産で忘れさせてあげたく思い、旦那さんを差し置き、私が何が何でも嫁を幸せにしてあげたくて。」

「大体の事はわかりました。それ以上のことは聞かないでおきます。」
「ありがとうございます。ご理解いただけますなら大変うれしく思います。

私は正式な夫ではありません
でも嫁を外国に連れて行ってでも幸せにしてあげる積りです。当然出来てくる子だって、籍を入れられるかさえわかりませんが、でも誰よりも大事にして誰よりも幸せな人生にしてあげる覚悟です。」


「いいですねぇご主人のその意気込み。わたしねぇ若い頃の事を思い出しましたよ。
若いころ外国へ研修に行っていて、その時ホテルの娘に手を出し、連れて帰る事になって、どれだけ親せきや家族に反対されたか、言葉さえわからないまだうら若い女性を、土産物じゃあるまいのに連れて帰って、

あの頃の若さを今あなたから見せて貰ったように思いだしました。
女性を好きになるっていいですね。 不倫ですか?許されざる恋 面白いですね。


 解りました。臨月になっていよいよ気配が出てきたなら来てください。
待っていますから。それまでお大事になさって、 滅多に救急車を呼ぶような事はないように
すぐに見つかりますから。電話番号も聞かないでおきます。お名前も」

「先生ありがとうございます。この御恩は一生忘れません。」


思いがけない温かい言葉に触れ、俺はこの時ばかりは様変わりしたように生まれ来る子供の事を誇りに思えた。
勿論瑠奈の事は言うまでもない。たとえ外国に逃亡しなければならない状態になったとしても、俺は瑠奈もその子も命に代えてでも守り続けたい。



 そんな思いにさせられた産科医の言葉で、急に灯りがともったように思えてきて、まるで瑠奈が誘拐し監禁している女ではなく、愛する人と大恋愛で駆け落ちしたような気になっていた。



だからマンションに帰って瑠奈の手錠をはがしながら
「瑠奈心配ないから先生も若かりし頃外国のホテルの娘さんに手を出し、それで連れて帰らなくなってみんなに反対されたけど…そんな話をして俺たちの事を知り思い出したって。

それで安心して臨月になったなら、それらしく気配を感じてきたなら来てくださいって。でも救急車を呼んだり絶対しない事っても言っていたよ。すぐに見つかってしまうって。これで一安心だね」

「じゃぁわたしはその言葉で喜ばないといけないの?」
「そうするほどいいと思うよ。俺のためにも瑠奈のためにも もう引き返せないから・・・」


「私たちって何?」
「私たち?今君はそう言ったね。そんな言葉は今初めて使ったと思うよ。私たち 君はもう俺の心の中で生きているようだね。体が何度も一つになっているように、心だって一つになってきているようだよ。

それも君にとって間違いだとは思わないよ。俺が言うのもおかしな話だけど、でも君はだんだん俺の心に中に入ってきた事は間違いないと思うよ。」


 それから縛らくして瑠奈がお腹が痛むと何度か口にしたから、以前お邪魔した産婦人科を訪ねていた。

大した事はなく安心してくださいと、そして順調に育っていると、更に予定日を聞かされた。

病院を後にして瑠奈は黙ったままで何も口にしなかったが、先生が最後に診察室の俺の居なところでこう口にしたらしい。


その言葉に瑠奈は
心を詰まらせていた事が一筋の涙から知る事となった。

「奥さん、一回だけの人生 その人生で窮屈に生きていくより、できれば伸び伸びと楽しく生きていくほど誰だっていい。
でも本当の幸せなんてどこにあるかなどわからないわけで、ご主人はあなたの事が好きで一緒になったが

あなたはそれ以上に良い人生がある事を知った。でもそれは不倫で在り許されない事。

でもそんな人生であっても振り返った時、素晴らしい人生で在ったと思えたらそれは素晴らしい事。
例え間違いであっても、許されない恋であっても、



今お付き合いしている彼氏さんは、あなたにとってどんな関係かは知らないが、どんな事があっても生まれてくる子のために命に代えても幸せにして見せますと、この前来られた時言っていました。

勿論あなたも幸せに、何か事情があるような言い方で、嫁に是が非でも子供を産ませてあげたいとも言っていました。

だから私はお二人の生き方が気に入って、私の若かりし頃を思い出して、それで安心してここで産んでくださいと」



 瑠奈は先生の言葉を、その夜になって俺に抱かれながら口にした。
もう彼女は誘拐された女でも監禁され続ける女でもない。
そして俺を殺したいと思っている女でもない。

先生に診てもらって安心したようで、瑠奈の顔から笑顔が時々現れ、俺たちはこの日を境に愛し合う二人になっていったと俺は思った。


身も心も一つになっていると俺には思えた。



時は流れ、俺たちは既に一年近く住んでいたが、その頃になっても新聞を取る事もなく、テレビを買う事もなく、兎に角目立たぬように心掛けていた。


 いくら瑠奈が心を開いて俺に溶け込んでくれたとしても手錠を外す事はしなかった。
手錠を外したが為に瑠奈の心が揺れ動き、咄嗟に逃げる事を考えたなら、俺たちは終わると俺は頑なに思い込んでいたから、かなり神経質で在ったが、初めからの決まりは崩さなかった。


「私ならこんな体で逃げ隠れなんかしないわ。そんな事をしたらみんな困るのわかっているわ。出来てくる赤ちゃんのためにも」


そうも言って瑠奈は俺を安心させると共に手錠を外してほしかったようである。


でもそれは譲る事はなかった。所詮俺は何十年も豚箱に入れられる犯罪を起こしたのだから、一部の隙があってもいけないと心に誓っていた。



 瑠奈は病院で先生に赤く腫れた手首の事を聞かれたかも知れないと思いながら、住所も名前も聞かないでおきますと言っていたあの大きな心を信じていた。

両手首に痣のようになった傷があり、腫れていて、また足首にも監禁されているような痣ががあり

瑠奈のその状況を先生が警察に言えば、俺たちは瞬時に手配され地獄を味わう事になるだろう。




 それでも無事に、とうとう臨月になり瑠奈は満月の夜男の子を産んだ。

このころには疑われてはいけないと俺は瑠奈の手首も足首も化粧品でしっかり保護し、更に鎖のような金属から肌に優しい布で彼女を縛っていた。

だから例え入院する事になっても、看護師が違和感を覚え不審に思ったとしても、大事に成らないように瑠奈の肌は綺麗になっていた。



 事情が事情だっただけに、瑠奈と子供はその日の内に病院を出てマンションに戻ったが、住所も何も言う事なく極秘のまま事を済ませてもらった。


ただ医者が言うには、私から外部に教える事はないから名前と住所を教えておいてほしいと言われ、先生を信用して詳しく書いて帰った。

それは子供のために記録として残しておく事も大事だと、愛情も責任もあるならそうしてあげるほど良いと説得されたからで在った。


 幼子は見る見るうちに大きくなってゆき、瑠奈もどこの母親とも変わらない愛情もしぐさも言葉遣いも
遠慮なく見せ、子供を産んだ事に対して、その優越感は計り知れない喜びがあったようで、俺に対しても穏やかな感情を見せるようになっていた。


「ママですよ・・・・」と優しく言葉をかけ赤く染まった頬にも優しく口づけをして、愛情に満ちた母親である事も満足そうに見せていた。

パパとはさすが俺の事を言いたくなかったのかも知れないが、俺の居る前ではその言葉を口にする事はなかった。


それで俺は言わば強制的に瑠奈の口からその言葉を引き出す事を考えてみた。
俺は幼子を抱きながら
「お父ちゃんですよ、お父ちゃんですよ。お父ちゃんですよ、パパですよ、パパですよ。始めまして」

何度も何度も同じ言葉を繰り帰していると、いつの間にか目から涙が滲んできた。悔しさと情けなさが同時に涙になって滲んできていた。

「瑠奈、君の口からこの子にお父ちゃんですよとか、パパですよとか一度も言ってくれないなぁ

気づいている俺の心はどれだけ傷ついているかおまえさんにわかるかなぁ

こうして立派な父親になった筈が、俺にはその資格さえないのかなぁ 瑠奈をさらってきて子供が出来たとしても、俺は父親になる資格さえないのかなぁ」


幼子の胸元に涙を落としながら俺は悔しさを堪えながら愚痴をこぼしていた。


瑠奈が俺の手から子供を取り上げ、そして

「もういいから、あなたの子よ、立派なあなたの子よ。さぁ早く名前を付けてあげて」

俺はその時、溢れんばかりの涙がほとばしるように出て、紐で繋がれた瑠奈の両手を上から握っていた。


「ありがとう、瑠奈が許してくれるとは考えていない。そんなに甘くはないと思っている。でも俺瑠奈が赤ちゃんを産んで一人の女性として生きてくれる事を誰よりも望んでいたから、心の底から嬉しく思っている。

悩んで悩んで悩みぬいて、誘拐と言う大胆な犯行を実行したあの勇気は、二度とできない代えがたいものだった。

失敗すれば、俺の何もかもが終る事も間違いなかった。失敗は俺が死ぬ事にも繋がった。


 あの産婦人科の駐車場で瑠奈と出会わなかったなら、俺はこんな事なんかしていなかったかも知れない。

気楽に保険金を取り崩しながら生きていたかも知れない。

でもあのころ、俺はおかしな噂に振り回され、結果会社も辞める事になり,あの地では居れなくなってしまって

おとなしくそれまでは生きてきた積りが、瑠奈もわかってくれていると思うが、

俺って温厚で波風をどちらかと言えば嫌う性格で在った筈が、あの火事以来俺は次第に世の中を斜めに見てしまうようになってしまい、


それは無責任な世間に流されたようなもので在ったけど、


瑠奈とあの駐車場で出会った頃は兎に角心がすさんでいて、そこで瑠奈が旦那さんの事を口にしたから、何故か悔しくなってきて、爆発したい気にもなって、

それでこんな形になってしまい・・・俺も瑠奈もあの時はつらかったはず」

「冷静に思い出したならあなたの事を恨んだりしてはいけないのかも知れないね。毎朝笑顔で小走りに出かけていたあなたと目が合い、軽くあいさつを交わす間柄、 でしたね。まさかこんな大胆な事をするとは? 余程あなたを世間が追い詰めたのかも知れませんね。変な噂を流して」

「瑠奈なら俺のあの時の気持ちをわかってくれそうに思うな。あの頃こんな俺に丁寧に頭を下げてくれる優しさを感じたから・・・」


「もうおたがい昔の事を忘れる時期になっているのかも知れないわね。
私は悔しいし情けないけど、あなたをこの子のお父さんと思うように努力します。」
「ありがとう、こんな俺を」
「いえ、あなたが私にした罪はとても大きなものです。しかし同じようにあなたが私にした行為は、自らの罪を顧みず馬鹿が付くほどの勇気を出して・・・・これ以上は言いませんが」

「ありがとう。俺が望んでいた形になってきた事には違いないけど、瑠奈が俺の思うように変わっていってくれている事に神様に感謝したいね。
時にはきつく言って、時には虫けらのような言い方をして、今だってこうして手に紐を括り付けていて、

俺のしている事の罪はどれほど重いか計り知れないと思う。

瑠奈にいつの日か詫びなければならない日が来ると覚悟はしている」

「かくごって?」

「だから覚悟。一人の女性の運命を俺は変えてしまった。その罪は何にも代えがたくて詫びたところでぬぐい消す事など絶対できないと思っている。
いつか瑠奈に謝ろうと思っている。」

「ではこの紐を今外して、それだけでも罪は軽くなると私は思うけど」
「それは出来ない 瑠奈の心の中で万に一つでも俺を恨む気持ちがあり、隙を見てこの部屋を飛び出して、人ごみの中で助けを求めれば何もかも終わるから。

そうなったとしても俺は瑠奈を追いたくないから、俺はあの缶に入っている油を全身にかぶって火を払いそこで終わってもいいから。

だから瑠奈を信じたい信じ切りたい、でも万が一瑠奈が逃げたなら・・・それを思うだけでも怖くなってくるから  
何故なら俺は瑠奈を誘拐監禁したのだから  わかって、 それに先ほど言った言葉
いつの日か俺は瑠奈に深々と頭を下げてこれまでの事を謝るから  ただその時期は今ではないって事」


「私は今幸せを掴みかけていると思ってきているわ。 確かにスタートは許されない事だったけど、
あなたのあの時置かれていた状況を知り、なんとなくわかるような気がするの。
それにあなたが私に対しての思いやりも。

確かにあの産婦人科で主人の事をはっきり言われ、目の先が真っ黒になってしまい、外へ出てもふらつくような歩き方をしていたはず。

現実が怖かった。
それにあなたが何度か言っていたように過去の罪が付きまとっているようにも思えて、とにかく辛くて辛くて

それであなたの顔を見て、この人にすがりたいと思えたの。
だから車に乗せていただいて愚痴をこぼしてしまい、それであなたの心に火をつけた様になり・・・」

「瑠奈、俺と君は結ばれる運命だったのかも知れないなぁ 不釣り合いだけど 月と六ペンスだけど

子供が出来てから俺たちは幾つも2人の心の間にあった障害がなくなって行き、愛し合う男と女になって行っているように思えて来てるよ。 瑠奈もそう思ってくれないかなぁ?」

「少しは。でも私の口からは「そうです」とは言えないでしょう」

「でもこんな話にでも相手して貰えるようになった事だけでも嬉しいよ」

「さぁ、これからこの子の名前二人で考えましょう」

「そうだね」

 子の名前は瑠奈のお勧めで健一と名づけられた。健やかに生きてくれる事を瑠奈は強く望んだ。

さすが毎日これと言った仕事にも就かず、食いつぶすばかりの生き方をしている二人には金銭的にも子供の将来を考えても許されるものではなかった。


俺は独り暮らしで在ると世間には見えていて、絶対窓を開ける事はなく、やはり心のどこかで瑠奈を疑っていた事は間違いなかった。

時折窓を開けて洗濯物を干すシーンもあったが、その時は必ず瑠奈の足に紐をかけていて、不自然な二人の生活が続いていた。


それでもこの頃になると俺の心の中で常に葛藤が起こっていて、瑠奈の手足を結んでいる紐を解いてあげるべきだと思う気持ちと、そうではなくやはり疑う気持ちを絶対忘れてはいけないという気持ちが入り乱れていた。

そして後者がいつも少しばかりで在ったが勝っていて、もし万が一瑠奈が逃げでもしたなら、とんでもない結末を迎える事になると俺は神経を尖らせていた事は確かであった。


それから半年が過ぎ、
健一は鳴き声をお隣さんに轟かせるようになって、俺たちが夫婦である事が次第に分かりだし、
それと同時に瑠奈も洗濯物を干す姿を世間の人から見る事が多くなっていた。

足首には紐がしっかり結ばれていて、すでに漁村の田舎町で拉致してから一年半の月日が経っていた。

 俺はそんな瑠奈が抵抗する事なくごく自然に生きている事に対して心を痛める事が多くなってきて、
このころになってある賭けに出る決意をしていた。

いずれ働かなければならないという気持ちも沸いて来ていて、現状を維持する事に無理があるように思えて来ていた事も確かで、

どこにでも居てる父親のように、俺は子のために家族のために働く決意をして、瑠奈にその事を話し始めた時であった。


「瑠奈、俺働きに出ようと思う。 お金はまだ残っているから慌てなくてもいいけど、でも健一もできた事だし、二人を幸せにしてあげたいと思うから、

それで俺頑張る事にした。 瑠奈の気持ちを思えば俺のような勝手なやつを認めたくはないと思う。
でも俺としてはこれから三人で幸せだけを求めて前へ進みたい。

もうすぐ健一の1歳の誕生日
その日に俺は瑠奈にある事をしたい。 それが何であるかは言えないけど。 瑠奈を誘拐した時に心で誓った事と同じ思いの事をしたい。

あと12日で健一の誕生日
最近瑠奈を騙してあの漁村に誘い、子供の事で瑠奈をだまし、それから今日まで俺は瑠奈が幸せになってくれる様に考えながら、身勝手で俺流だったけどそれなりに頑張ってきた。


何一つ俺としては悪意はなかった。
でも正直なところはこんな事をしてでも瑠奈のような上玉の女は抱けないと思って居た事も確かにあった。
卑怯で狡い男と振り返るたびに心を痛めながらも、瑠奈の手首を縛り、足首にも紐をかけ、それで何が幸せにしたいって言うのかと、自分でも揺れ動く気持ちと闘っている毎日だった。

だから・・・・だから」

「もういいのよ。苦しんでくれなくとも、あなたの心の中に何が詰まっているのか私にはわかりますから
だからあなたを恨んでいる気持ちと、あなたを許そうとしている気持ちが交差していて、今はこの事にあまり触れたくないというのが本当のところ。 
健一もこうして毎日大きくなってきて笑顔がかわいくて、横顔はあなたに良く似ていて私気に入っているの。

だからもう過ぎた事はいいから」
「ありがとう。」


それから12日が過ぎ健一の誕生日がやってきた。満1歳である。

その夜
俺は寝静まった健一を奥の部屋に連れて行かせ瑠奈と二人で見つめあうようにして話し始めた。

「瑠奈、今日から瑠奈のその手首の紐も足首の紐も外すから」
「どうして?」
「だから健一も1歳になったから」
「でもどうして、私が逃げ出すかも知れないわよ」
「そうか・・・でもその話はしたくないな」
「じゃぁどうして?」

「俺が何故瑠奈の紐を取りたくなったのかをこれから話すよ。」
「・・・」
「待って、取ってくるから」

俺は引き出しの奥から箱にしまってあった瓶を取り出し瑠奈に見せた。

「これ、瑠奈を一年半前に田舎の漁村に呼び出し、お茶でもどうぞとこの瓶に入っている睡眠薬を混ぜ、それを瑠奈に飲ませた。

瑠奈はそのうち眠ってしまい、俺は瑠奈を車のトランクに乗せて夜のうちに走り、それから9時間ほど走ってここまでやってきた。

車のナンバープレートも手書きで作り、本物を外してカモフラージュしていたから、たぶん警察が聞き込みに来たとしても消息不明になっていると思う。

 現にあれから1年以上も過ぎているのに誰一人来ないのは、瑠奈は誘拐ではなく駆け落ちではないかと警察が判断したなら、男と女の生臭い出来事で警察も深入りはしないだろうと思われる。


それに俺と瑠奈の男女としての関係は?

そんなものあるわけがない。旦那さんが二代目社長で、その妻の瑠奈は、清楚で美人で上品

まして俺は自分の家に放火して保険金を狙ったとまで流布されていた男、接点などどこにもあるわけがない。 だから警察は瑠奈が子供の出来ない旦那に見切りをつけ、他の男と駆け落ちしたのではないかと

無責任な警察ならそれくらいの推察をして落としどころにしているように思うな。

瑠奈には過去があるから、男に燃えた過去があるから、警察は調べるよとことん。

只そんな話は日本中至る所で発生していて、治安に煩い警察でも真剣に取り上げるかな?


瑠奈、君と2人で話した事なかったけど、旦那さんの事時々考えているかな?」
「ええ、再三考えていたわ。健一が出来てからはそうでもないけど」


「瑠奈にどんな経緯があったとしても家を出て行ってから一年半、旦那は我慢しているかな?あいそうをつかして、次の手を考えているのじゃないかな? つまり再婚を、

もしかして子供連れの色っぽいホステスとか・・・男って単純でそんなとこあるから。シングルマザーとかなら結構居るから旦那さんはお金があるから・・・


瑠奈がかなり上等な女だから、旦那さんは随分苦しんだと思うよ。いくら種無しだったとしても」

「もうその話はしないで、古傷を舐めるような話は」

「だったら真剣な話をするよ。
この瓶瑠奈を眠らせてここまで連れた来た睡眠薬。まだほとんど残っている。 でも今こうして出してきたのは俺なりの覚悟を決めたから
これを俺これから飲むから、」

「やめてよ!変な事しないで 健一の誕生日だっていうのに」
「瑠奈止めないでほしい、何も言わないでほしい。覚悟をして今日を迎えたから」
「なんで?~わたし許す気になっているのよ。何をする気なの?」

「だから俺これを飲むから、瑠奈が結論を出すのは俺が深い眠りについてからにしてほしい。」

「いやよ。なぜそんな事になるの?ここまで引っぱっておいて。」

「瑠奈、俺が寝てからじっくり考えてくれればいい  お前をこれからもずっと好きでいたいから
だから最後の俺の身勝手を許してほしい。俺の我がままを見逃してほしい。」




俺は睡眠薬を6,7粒一気にそれを喉に流し込んだ。
「やめなさいって、やめて!」
瑠奈は俺の唇に両手を当て口を開こうとした。
だが俺は頑なに唇をふさぎ更にまた何粒かの睡眠薬を口にれた。

瑠奈はパニックになり慌てて立ち上がり、奥の部屋に行き健一を抱きかかえて俺の唇に近づけ

「吐き出してよ。吐き出してよお願い、お願いだから」と、うろたえながら絶叫した。

俺はそんな瑠奈と健一を優しく撫でて、

「あと一時間もすれば俺は深い眠りにつく、
瑠奈はそれからでも遅くないから、これまでの事、これからの事、君が一年半もの間受け続けた屈辱

殺したく思った日々、強引に強要されたセックス、何一つ自由でなかった毎日、失った家族、失った一年半の歳月、

いやいや俺にはわからない屈辱が他にも一杯あると思う。

だから俺が寝てしまい落ちついたら、瑠奈の正直な気持ちでこれからの事を考えてもらいたい。




あの引き出しの中に、この睡眠薬を隠していた引き出し
あの中に包丁を入れてある。
それでその紐を切ってほしい。手も足も、 それに俺の名前も今も言っていなかったね、昔住んでいた家に表札はかかっていなかったから、俺の名前は知らないはず、 田所と言う名は知っていたと思うけど

回覧板を持ってきてくれた事があったから
俺の名前は諭 さとしっていうんだ。聞かれた事無かったから 福沢諭吉の諭の字だね。

それから少しだけど母が残してくれた生命保険の通帳、火災保険にそれに家を売ったお金もまだ残っているから

これまでに使ってきたお金は、自宅に放火してもらった火災保険と言われて苦しめられたその時受け取ったお金

母が保険の外交を長年して俺を育て、若くして死んだおやじとも貞操を守り頑なに再婚を拒み、そして何とか一軒家を買い頑張っていたおふくろ

どうしてそんな宝のような母さんの魂がしみ込んだ家を俺が火をつけられるのか、

俺には大体の事はわかっていた。
母さんに下心を持ち後家になった母さんを狙っていた人がいた事を俺は知っていた。
保険に入っていて汚い男だった。


立派な家族がありながら目を盗んでは母に近づき、母が困っていた事も俺にはわかっていた。



おそらくその男が俺があの家に火をつけたと言いふらしたように思うな。何故なら俺はその男の事を警戒していて嫌ってもいたから。



俺が邪魔だった事は間違いなかった。
あの家が燃えてあの男は腹いせに俺を貶めるデマを流したように思う。」

「それって私も知っている人?」
「知っていると思う。だって市会議員もしている人だから」
「だれ?」
「でもそれは言いたくない、瑠奈に関係ないから」
「・・・」

「その話はもういいから、母の保険金は一切手を付けていないから、まだかなりあるとおもう」
「どうしてそんな事を?」

「あーぁすこし眠くなってきた急いで話すね。瑠奈君は今日から俺が眠ったなら好きにしてくれればいいから。

そのお金を提げてここを出て行ってくれてもいいから。
警察に連絡して助けてもらってもいいから

旦那さんに電話してくれてもいいから
引き出しから包丁を出し、紐を切ってその包丁で眠った俺の心臓を突いてくれてもいいから
俺のここを阿部定のように切り取ってくれてもいいから

入口にある油を俺に掛け眠っている俺を燃やしてくれてもいいから

瑠奈がこれまで受け続けた一年半の屈辱を、どのような形で仕返してくれてもいいから

俺は多分眠ってしまったなら何時間も目を覚ます事はないと思う。
だから瑠奈の思うがままに結論を出してもらいたい。

あ^ぁ眠くなってきた。瑠奈ごめんな 俺の我がままに付き合わせてしまって。
お前さんの人生をズタズタにしてしまって

最後に健一を抱かせてもらいたい。」


俺は健一のおでこにおでこをくっつけて、滂沱のごとく泣き続け、その内虚ろになってきて、力も抜けてくるのがわかり、健一を瑠奈に預けてやがて深い眠りについた。



















「田所さん、田所さん やっと気が付きましたね。」
「・・・・・」
「わかりますか?ここがどこか?」
「ここは?」
「ここは病院です。あなたは救急でこの病院に運ばれてきたのです。睡眠薬を多量に飲まれましたねえ?

解毒剤で薬は抜けましたが・・・早まった事を・・・でも大丈夫ですよ。心配はありません。」
「・・・・」
「どうされたのですか?誰だって生きていれば心配事もあるでしょうが男なら強く生きないと。投げやりな事をしてはダメですよ。」

「ここはどこですか?」
「私立病院です。お友達の方があなたのマンションを尋ねられた時にあなたが倒れていて、周りにはお酒の瓶が転がっていて、息はしていたからもしかしてアルコール中毒か何かだと思い救急に電話されたようですよ。

お友達の方が訪ねていなかったなら危険状態で在ったと先生が言っていましたから、相当睡眠薬を飲んだのですね?でも助かってよかった。」
「それで電話をしてくれたその方は今は?」

「私には詳しい事はわかりませんが、幼い子供を背負っていて、あなたを救急隊員に預けられ、そのままあなたのマンションで残られたみたいです。

だから保険証の事もあり警察官立ち合いで、あなたのマンションに行き、あなたが田所さんである事もわかったみたいです。

でもそのあとの事は知りません。救急に電話下さったお友達に方も、そのあと居なくなっていて、お家に帰られたものと思います。

 救急隊員の方が、お聞きしたい事もありましたが、いつの間にか居なくなってそれからもあなたの具合を訪ねてく事も、今のところありません。

申し訳ないですお名前をお聞きしていません。もしかして救急隊員の方なら判るかも知れません。


あなたのお友達で、誕生を迎えたくらいのお子さんの居るお若い女性のお友達ご存知ではありませんか?」

「もしかして近くの方で何か用事があったのかも知れません。つまりそんなお若い女性でお友達なんていませんから。」

「でもあなたのお部屋に入って行くような方のようですよ。ただ何か用事があってそれで訪ねるとドアが空いていて、それで覗きこむとあなたが・・・・」

「そうでしたか・・・いずれはっきりわかると思います。もう少し落ち着いたらわかるでしょう」
「ごめんなさいね。いろいろ聞いてしまって。病院としては警察にも報告しないといけませんので。
まだまだ気を落とされているのに不躾でしたね。ごめんなさいね」




看護師は出て行った。

真っ白な壁は俺の過去などわからない。
俺は誘拐犯であるとか若い主婦を監禁していたとかまるで知らない。だけどそんな白い壁が俺を見つめるように四方で俺の行く手をふさいでいる。

いったい俺はどうなってここにきているのか?
この病院に運ばれたいきさつは?
そして俺は生きている。
瑠奈の姿は?瑠奈は今?
そして健一は?

2人とも生きているのか?
そしてどこへ行った?
にげたのか?
俺を捨ててどこへいった?
まさか死んでなんかいないだろうな?
警察が来るかも知れない?
俺の素性があからさまになり誘拐犯としてこの場で逮捕か?

いったい俺はどこへ行く?







瑠奈は俺が睡眠薬を飲みやがて眠りについて、それを見ていて怖くなってきた。
死んでしまうかの知れないと思った。

だから有無もなく救急に電話を入れた
助けてあげてくださいと
それで瑠奈は俺とは無関係であるような素振りを考え、たまたま俺を訪ねてきたら玄関のドアが開いていて、中で俺がぐったりしていて、息はしているが周りにお酒の瓶が転がっていて、急性アルコール中毒ではないかと救急に電話。


そして俺を救急車に乗せ、瑠奈は俺の部屋から荷物を整理して出て行った。
整理している時に救急隊員が警察とやってきて、荷物を調べられたが、その時点では俺との関係は知り合いって事にして説明したはず。

以上のことは看護師の言葉から想像できる。

それから瑠奈と健一はマンションを後にしてどこかへ出て行った。 ここに連絡もない事を思うと逃げたのだろう。


俺に行き先を伝える事はないだろうか?
どこかで例え死ぬような考えを持ったとしても、俺にはどうする事もできない。



俺が瑠奈を誘拐して一年半も監禁していた事実は消す事など俺でさえできないのだから、瑠奈にしてみればどれだけ辛い日々であったか計り知れない。


俺は心の隅で微かであったが願って居た結論は、瑠奈が涙一杯にして俺が昏睡状態の時に許してくれないかと思った事もあった。


その様なストーリーであるほど話として美しく人間味があると身勝手にも思ったりもした。

しかし現実問題人間として誘拐され監禁され更に奴隷のように扱われ、絶対したくない事を何度もさせられ、手足も唇でさえ腫れあがり、決して許されない事をさせられた一年半で在った。


やはり瑠奈は俺を殺したかったのだろう?
殺して殺して八つ裂きにして深い谷底にでも突き落としたかったのだろう。

ただ死んだようになって昏睡状態の俺の姿に心のどこかで許す気が芽生えたのかも知れない。
殺さなかったのは?



瑠奈はどこかへ行ってしまった。
救急で運ばれてきてからこの病院を訪ねてくる人は警察と救急隊員と看護師さんだけである。
警察は特に面倒な話をしに来たわけではなく、当たり前の事を神妙に聞き入っていただけである。

「田所さん、二度と早まった事はしてはいけませんよ。あなたは独身のようだけどお子さんがいたならどの顔で家に帰るのですか?

自ら命を絶ったりしたら、みんなに心配かけるだけですよ。」
「いえ、俺死ぬ気はなかったです。」
「何を言っているのですか、致死量を飲んでおいて、処方箋は瓶に書いてある筈です。」
「そうでしたか・・・ごめんなさいね」

俺は病院を後にしてマンションに戻った。
大家さんの置き手紙があり、訪ねると部屋の鍵などを預かってくれていて、
「あなたを発見されたお若い女性とお子さんがここにやってきてカギを預けたいと  それでこうして」と言う話で在った。


 俺を救急車で送り出した後、慌てて自分の荷物と健一の荷物を持ち、そのあと救急隊員と警察に保健証書や現金のある場所をさがしてもらい、その後でマンションから出て行った事がはっきりした。


俺は大家さんに詳しく聞きたかったが、瑠奈の立場を思うと、あくまでも近所の知り合と言うだけで、特に深い関係ではないと悟られないように言葉を選んで終始していた。


それから鍵を預かり自宅に戻った俺は、物悲しい風が静かに吹いている事に気がついた。

もう健一はどこにもいない
瑠奈は雲が流れたようにどこかへ行ってしまった。
もう二度と俺は瑠奈のあの体に触れる事もできないのか?
あの股間に秘められた妖艶ささえ過去のものになってしまったのか?
俺の只管であったはずの一途の愛も木っ端みじんに爆発してしまったのか?

あの瑠奈の真っ白い体と陰毛
そっと口づけてそしてなめて軽く吸って、 大きく大胆に開いた細い両足
こんな俺が経験する事などありえなかった数々の神秘
どれだけ幸せだったか、どれだけ快感で在ったか、どれだけ陶酔されたか、

そして間違っていたとしても俺としてはどれだけ愛していたか?

瑠奈ありがとう ありがとう瑠奈




おわったなぁ! 全て終わった気がするなぁ

何をするわけでもなく俺はソファーに腰を沈めぼんやりとしながらどことなく見つめていた。

幼子の声も今はなく、這い出していた健一の顔を浮かべながら目頭が熱くなってきて仕方なったが、心をリセットして気を取り戻していた。

忘れなければ、忘れてあげる事が俺の罪滅ぼし、瑠奈の名誉のためにここは引き下がらないと、

決して未練を持ったりなどしてはいけない。
嫌われている相手に未練などあってはならない。瑠奈は俺の事を殺したい人であることには違いないのだから。

あの時、睡眠薬を飲んで眠気が差してきたとき、瑠奈に殺されても仕方なかったのだから、
そうなってくれてもいいと俺自身が覚悟を決めたのだから、

不思議であったが、瑠奈の優しさが滲んだように感じてきて、俺は目頭を熱くしていた。


でも時は過ぎていき、

俺はいつの日にか、瑠奈を監禁していた罪の重さに縛られていて、俺自身も第三者に監禁されていたような日々が続いていた。

いつ警察が来るのかとか、旦那さんが飛び込んでくるかも知れないとか、瑠奈が隙を見て俺に襲い掛かり、首に包丁を突き付けられはしないかとか、台所にそれがある以上は可能性はゼロではなかった。


 だからいつも気を揉んでいて怖くもあり可哀想にも思え、現実から抜け出したい日もあった。
監禁して間もなくのころは情など移るわけがなく、瑠奈からやさしい言葉を聞く事なく、兎に角威嚇する事が瑠奈を調教出来る手段で在ったから、

股間に頭をねじ込むようにし俺の一物をくわえろとか、俺の思うがままにして奴隷のごとく扱っていた。

それでないと持たなかった。優しさは命取りに思えた。だから手首は腫れても足首の色が紫に変わろうと一切妥協する事はなかった。


それでも、そんな罰当たりな事を繰り帰してきたとしても、

睡眠薬を飲んだあの日の俺は、瑠奈が許してくれて俺の元から離れることはないだろうという心に甘さがったことは否めない。


でもそれは瑠奈に通じることはなかった。


 そんな事で冷静さを取り戻し、日を追うごとに俺の気持ちに一定の区切りのようなものが出来てきて、

瑠奈の事は忘れるように心にケジメをつけて、新たな生き方をしてみたいと思うようになってきた。


 過ぎた日々を思い出しながら懐かしくさえ思えるようになっていて、俺の人生において、どれだけ素敵な日々であったか計り知れない経験で在ったと思うようになっていた。 それは言い換えれば、完全に過去の出来事と思うようになっていた。


 瑠奈は俺と暮らした日々の事をどのように思っているのか、それは彼女が俺の持っていた保険証書の中で、
母親から預かった生命保険にも手をつけていないで、また土地を売った金も一切触っていなかったが、火災保険で受け取った金だけ手を付けていた。


それもほとんどを持ち出すような事をせず、彼女なりの気の使い方で言わば最低限のお金を持ち出しただけで在った。

おそらく自分の持ち金など全くなかった筈であったが、もしかして子供を養子に貰うつもりで在ったのなら、手付金を持って出ていたかも知れないが、それは俺にもわからなかった。

何度も裸に強制的にして真っ裸にした事は何度もあったが、財布の中まで調べることはなかった。

最低限のお金を持ち出しただけの清楚な女であった瑠奈を、俺は忘れる事はないだろう
そして彼女と知り合いこうして深い関係になった事は、どれだけ意味のある人生になったか、この一年半ほどの間に凝縮された我が素晴らしい人生。


「もう十分」
「ありがとう瑠奈」


俺は壁に白い紙を貼り、マジックでそう書いて、神様を拝むように瑠奈の写真と共にその字を見つめている。


 


 瑠奈の消息を探す事もなく、まるで何も無かったような毎日を重ねていた俺は、新しい仕事にも就いて、昔のような穏やかで控えめな毎日を重ねていた。

新しい勤め先では大勢の仲間ができ、楽しい毎日になりつつあった。

 瑠奈と健一の事は写真を張っていたから毎日思い出してはいたが、だからと言って会いたいとも思わなかったし、

俺の役目はあの睡眠薬騒動の出来事を境に終止符を打っていたから、未練がましいことは一切なかった。

ただ新しい職場で好きな人を見つけたりする気は全くなく、瑠奈は間違いなく俺の心に中で生きていた。

それはどんな形で在っても、俺の心で燃えている女は瑠奈以外にはいなかった。

だから今さらで在ったが、瑠奈が新婚でやってきたあの家の玄関先で俺をやさしく見つめて軽く挨拶してくれたあの顔や姿は、絶対忘れる事はないと思っている。

生涯で誰よりも好きになり誰よりも大事な人で、誰よりも抱いた女で、誰よりも燃える事の出来た女でもあった。その構図は絶対崩れる事はないだろう。

だから俺は今後女性に出会うかも知れないが、瑠奈ほど好きになる女性は現れないと思うし、そしてそんな風には絶対ならないとも思う。


瑠奈には感謝の気持ち以外は浮かんでこない。

 達成感に満たされた思いの毎日が続いていて、心の中はからっぽでありながら常に満たされていた。
 
 健一の顔が時には浮かんできて、満面の笑顔で俺に向かってくる姿は、とめどもなく俺の心を満たしてくれたのである。


もう歩き出しただろうか、少しはかけっこの真似事さえ出来るようになっただろうか、躓いて怪我なんかしていないだろうか、

瑠奈はあれ以来どうなっているだろうか?


俺の頭の中でうごめく二人が、毎日のように現れては消え、現れては消え、
この一年半余りの間に起こった出来事を、俺は自信を持って肯定している事が、今感じている心境からも分かった。



「逢いたいなぁ・・・・健一をこの手で抱きしめて、それからお前を両手で支え挙げて、おまえが喜びはしゃぐ声を聴きたいなぁ・・・」


「瑠奈、健一、しっかり生きていてくれよ、楽しい人生であってくれよ、

俺はいけないことをたし男だから、お前たちから引くけど、お前たちの幸せをいつも祈っているんだよ。

 父さんが睡眠薬を飲んだのは母さんの為に、母さんに対する愛情のために
父さんもとても辛かったけど、でも母さんのことを思うと・・・

だから死んでしまっても仕方なかった。母さんに殺されても仕方なかった。

 それでも父さんは母さんのことが誰よりも好きで誰よりも愛していて、

誰よりも大事に思っている。

だから父さんは母さんに謝って謝って、それで殺されるようなことになっても覚悟をしていた。

お前たち二人がどこかで生きてくれていることを願っているよ。

そしてお前のお父さんは優し人だったと言って貰えたら嬉しいなぁ。

たとえお母さんが「お父さんは病気で死んだ」と言っても俺構わないから

おまえがすくすくと育ってくれるなら・・・」




俺は一人残された部屋の片隅で二人の写真を見つめながら、目に涙をうかべて過ぎし日のことを思い出していた


 そんな日々を重ねていた俺の知らぬところで、瑠奈は波乱の日々を繰り返していた。


俺が睡眠薬を飲み眠ってしまったので、瑠奈は慌てふためいて俺の口に水を近づけ飲まそうとしたが、まるで受け付けない俺の顔に水をかけてみたが、むせるばかりで水を吐き出したらしい。

それで仕方なく救急に電話を入れて、泣き続ける健一をあやしながら俺を見送ったらしい。


 そのあと瑠奈は俺とのことがばれてはいけないと、自分の荷物をかたずけ俺のバックに詰め込んで、健一を連れて退散する積りだったが、
警察と救急隊員がやってきて、いろいろ聞かれたので、瑠奈は知り合いであるが深い関係はないと言い切って、大家さんに俺の家の鍵を預けてこのマンションから出て行ったらしい。


 その時俺が持っていた現金を持ち出し当座の資金にと。
瑠奈は眠らされてきたから、今どこで住んでいるかさえ知らなかったから、随分迷ったが、とりあえず安旅館を探し、素泊まりを繰り返し、その内何か仕事に就くことを考えたようだ。


 ところが旅館で新聞を見て尋ね人の欄に自分の名前があることを知り、驚くとともに旦那さんのことを思い出すようになり始め、忘れようと思っていたがその記事を見たことで、心がざわついてきて、こんな事はしていられないと、慌てて自宅を目指したらしい。


 ところで俺が当時の瑠奈の心境を聞いたとき、瑠奈は、
「あなたのことを許す気になって来ていたわ。でも健一を誘拐犯の子供にはしたくなかった。
あなたが眠ってしまい、命の危険を感じてきたが、それでも貴方を救急で送った後、私はあのマンションを出ていこうと思った。


貴方に未恋があったことはわかっていたけど、でも許せなかった。
でも本当に辛かったのよ。どうしていいのか正直わからなかった。


助けなければいけないと思う気持ちと、私をずたずたにした憎い男
うんと反省しなさい、うんと苦しみなさい。死んで詫びなさい。この体をずたずたにしておきながら、私の人生をむちゃくちゃにしておきながら・・・」


あなたが眠るその前で水を唇に押し付けながら、心では・・・心では泣いていたの。
全く迷惑な人と本当に迷惑なことを」


 そんな思いで瑠奈は俺を案じながらも見送り、そしてこのマンションから出ていこうと決心したらしい。


 
 そして一目散に旦那さんの元へ帰る積りであったが、帰り道で自分が何故こんなことになったのか、一年半近くの出来事を正直に話すことができるか・・・・

そんなことを思うと家に帰ろうとする足が重くなってきて、やがて足が動かなくなってしまったらしい。

 それは俺と何度も交わった赤裸々な日々を話さなければならないと思うと、無理だと思えてきて、やはり俺と何度も言った様に、「もう引き返すのは無理」と言った言葉が全てであった。


男と女の間には深い溝があるのは誰しも思うこと
だけどその溝を埋めるものがあり、それを二つの性器と愛液で満たされているからうまくいく


だけどその原理も時にはいがみ合う原理にもなり、神様は決して簡単ではないことを示されているようだ。


瑠奈は旦那さんを思いながら複雑な思いも交差していたが、それでも警察に相談してみることにした。


すると警察はまだ若い女性で在ったから、目の色を変えて瑠奈の言うことをきいたらしい。

健一はその時眠っていて、交番の片隅でバスタオルを掛けてもらってすやすやと眠っていたようであった。


瑠奈が、
「私、一年半ほど前にあることで悩んでいて、それは子供のことでした。
主人は子供が出来ない体であることを知らされたときで、私はとても子供が好きで病院で結果を聞いてとてもショックでした。


それから私は独りで悩み続けていて、だからと言って主人を攻めることなどできないから、半ばあきらめかけていたとき、ある方から助言され、それでその方を訪ねていきました。

でもそれは卑劣な団体で私はまんまと騙されることになり、更に帰すこともできないと言われたのです。
それで意味が解らず抵抗しましたが、強引に眠らされて頭がぼやっとして、気が付いたときは手足を縛られていて、身動きできない状態にされていました。


それから私は・・・
わたしは地獄のような毎日になり、その組織に男の人の相手をさせられる羽目になり、それが半年ほど続くことになりました。


そんな毎日を繰り返していて、案じていたことが起こり、妊娠することになり、この様にこの子が出来たわけです。

私と同じような方も何人か居た様で、一体何が目的の組織で在ったのかもわからないまま、奴隷に様な生活が続いていました。

ところがその組織は仲たがいを繰り返しとうとう分裂したようです。

「子供を早く産め」と何度も言われましたから、子供を売買する組織だったのかも知れません。


ある日、私は目隠しをされ、どこかの公園のベンチに座らされ、
それで「まだ目を開けないでね。俺が居なくなるまで 俺の姿を見たらあんた殺されるから、絶対目を開けないで5分間、頭を動かせても駄目だよ。
もし誰かに連れていかれそうになったなら大声をあげて それで助けて~って叫ぶんだよ」


 男の人にその様に言われ逆らえば怖いからじっとしていました。
それで5分が過ぎた時目隠しを取ると、見慣れない景色のビルが建っていて、
まるでどこで在るのかわかりませんでした。 

それから主人の元へ帰りたかったのに子供を連れて帰ることなど考えられず、とりあえず安旅館に住み、それからじっくり考える積りでいました。


 ところがその安旅館で私が尋ね人の欄に載っていて、何枚も古い新聞も見ると、連日のように私が載っていて、これはいけないと思い、思い切って自宅に向かいました。

 
 しかしやはりこの身、主人の子でもない子を連れて、どんな訳があるとしても
無作法な話。

私はいろいろ考えましたが、万が一事情を知った主人が愛想をつかし、別れることになっても仕方なく、思い切って捜索願が出ていると思い、こうして警察にご相談させて貰いました。」



「そうでしたか・・・大変なことでしたね。お気の毒に・・・

その組織って場所的にはどのあたりでしょうか?」

「わかりませんが、おおよそはわかります。姫路市でした。姫路市の駅がありました。」
「そうですか、遠いですね。ではその件は所轄にお聞きして、それらしい疑わしものが存在するのか調べてもらいます。

まずご住所から聞かせてください。お名前も、お子さんのお名前も。
ここへ書いてください。

 それでお話を聞かせてもらって、あなたは拉致監禁に遭われたように思われますね。。

取りあえずお住いの警察に連絡して、そちらで詳しいことをお聞きすることになると思われます。

解放されてからここへ来るまでにどれくらい掛かりましたか?電車ですか?」

「はい、乗り継いで五時間くらい電車に乗って」
「そうでしたか、ただその誘拐組織もあなたのご自宅も、こことは相当離れていますね。

ですから、あなたのご自宅がある警察署で解明されるようになると思います。

それでこれからあなたの所轄の警察署に電話入れます。」

「はい。」

「今こちらに31歳の奥さんが出頭して来ています。お子さんと一緒に
捜索願いが出ている方です。

お名前は石村瑠奈さん31歳で、尋ね人の欄にも載っているようです。
更にお子さんが 名前は健一さんです。

ただ事件性のある案件だと思われますので、これから2人をお連れしますから取り調べお願いいたします。

事件性と言うのは、どうも奥さんは拉致監禁されていたようで、詳しく聞かないとわからない案件のようです。ではお連れします。捜索願が出ている方です。」



瑠奈と健一は、所轄の警察署まほろば署に連れて行かれた。

目をきょろきょろさせて瑠奈を待っていたのは夫の石村幸秀であった。

所轄についた瑠奈たちは、夫を交えて瑠奈の取り調べが始まった。
健一は何事かもわからずに隣の部屋でお菓子をもらって寝転がっている。


「では始めさせていただきます。大よそのことはあなたが出頭した野原署から
お聞きしています。

それで奥さんはこれから話されることで、旦那さんに聞かれては不味いとか話し辛いとかあるようでしたら、まずあなただけにお聞きしますが、
 
どうですかな?」

「いえ、大丈夫です。そんなことをしたら私に何か落ち度があるとか、許されない感情があるとか、それは嫌ですから、主人にも聞いて頂きたいです。


 ただこうして主人に関係ない一人の訳ありの子供を連れて出頭したわけですから、

覚悟はしています。

許されないかもしれません。いくら主人が聞き分けの良い方としても、男として許せないかも知れません。

そんな内容で在ることには変わり在りませんから・・・」


「ではお聞きします。あなたはどうして家を空けられたのですか、
それは
聞かせて貰っているところによると、子供さんを世話したいからと、その言葉に騙されて言わば拉致されたのですね?」

「ええ、わたしの心に弱みがあり、誘われるままについていきました。」
「それはどのような人で?人って言うより手紙でしたね。女性からの
その手紙はご主人あてに投函されていて、奥さんの化粧品新製品ご案内ですとなっていましたね。」

「主人はてっきり私に来たものであるから気にも留めず、
それを開けた私はびっくりしました。、主人には子供を作る能力が無いことを詳しく書いてあり、

その方は女性で
私が通う美容院にもよく通って居た様で、ボランテアで子供の世話をされていると書かれていました。

それで翌年の2月に赤ちゃんが生まれるから、その里親を探していると書かれていました。

主人にも相談する前に、あなたがその子に会って覚悟を決まられるかと言われ、
主人に相談することなく私はその方とお会いする決意をしました。


そして訪ねていくと年配の男の方が居られ、妻は今外出中だから暫く待ってくださいと言われ、上らせて頂きそれでお茶を出されて、」

「それで?」

「いえ、わかりません。そこで記憶がなくなって  と言うより、眠らされたのです。

どれくらい眠っていたのか判りませんが、
気が付いたときは、気が付いたときは・・・」

「それからどうしましたか?」

「ええ、手足が縛られていて、それも手錠で鎖でつながれていて、足でさえ
わっかの錠で鎖で繋がれていました。」

「そんなひどいことを?どのような人が居ましたか?犯人の容姿です?」

「若い男の方が・・・・ひとり  でもその内何人かがひそひそ話をしていたように思います。部屋がいくつかあり私は若い男の人ばかりが担当だったようで、
それから毎日・・・毎日 嫌な思いをさせられました。」

「どんな事を?」
「それは・・・言えません。」
「言いたくないのですね。」

「でも言います。私は覚悟をして警察に相談しました。どんな覚悟かって言うと、それは主人から別れてほしいと言われても仕方ないことを・・・・」

「つまり奥さんは連れていかれた所で・・・辛い目に・・・」

「ええ、毎日セックスを強要され、手足を縛られた状態で身動きさえ出来ずに
舌を噛んで死んでしまおうと何度も思いましたが・・・それも出来ず・・・



ごめんなさいね。幸秀さん  私にはどのように抵抗してもかなわなかったの
大声なんか出せなかったし、猿ぐつわをされていて、もういいですか・・・これ以上は…」

「それで犯人はあなたを拉致して何が目的だったのでしょう?」
「わかりませんが、主人に子が出来ないことも言っていましたし、彼が私によく言った言葉は、

「早く赤ちゃんを頼みます」って何度も聞きました。

「どうしてあなたに赤ちゃんを?」

「わかりません。でも妊娠すると態度が変わった事を覚えています。
妙に親切になって」

「つまり、子供を売買する組織だったのかな? いつの世も子無しの金持ちが居ると、それをエンジョイする組織があるって聞いているが、それだろうな?

奥さん、おかしなことを聞きますが、あなたの相手をしていた男、結構立派な学歴のある男ではなかったですかな?」

「わかりませんが、よく本を読んでいたことは覚えています。」
「なら図星かも知れないね。高学歴の精子とかけあわせて出来た子供を売る。
養子として、高い金で」


「・・・・」

「それであなたは妊娠され子供を産むことになった。それがあの子ですね?」
「はい」
「それで、その組織は仲たがいして解散したとなっていますが、そこの所を詳しくお聞かせください。」

「ええ、隣の部屋で大きな声で怒鳴りあうことが何度かあり、恐々聞いていましたが、どなたかが猫糞したようなことを言っていて、お金の件で揉めていたみたいです。

その事があったから、もしかしたら健一が助かったのかも知れません。

本当ならどこかへ売ってしまう筈が、揉めていたから話がまとまらなくて、それで異様なムードで在ったことは確かでした。


健一だけ連れ出されたこともありました。いくらこんな形で出来た子でも、お腹を痛めた私にはとても辛いことでした。

それで1年が過ぎ、健一とも親子の愛情が出てきて、このままで居たいと思うようになりましたが、ある日私の担当の若い子が私たちに、

「明日の朝からあなたたちを逃がしてあげるから、夜明け前に起きていて」
そう言われ、そして朝になりその若い子に従うようにして夜明け前の公園へ目隠しされた状態で行きました。健一はその方が抱っこして、


目を開けると公園の前には交番があり、それでその交番を訪ねようと思いましたが、とにかく ここではやばいと思い、誰かが表れたなら大声を出す様に言われていましたから、怖くって、それで心が落ち着くまではどこかに身を隠し、何もかもを取り戻そうと考えました。

そして旅館の新聞で見つけた尋ね人の欄に、私の名前を見て心を決めて交番に出頭しました。」

「ところで奥さん聞きづらいことですが、あのお子さんのお父さんはあなたを担当していた方と思っていいわけですね?」

「ええ、その人だけでしたから」

「でもあんなかわいい子が出来て、その子を売ってしまうわけですから、その男の方も何か心の動揺とか無かったですか?」

「あったかもしれません。何故なら誕生のころに抱き上げて「お父さんですよ」
とか言ってあやしていたことがありましたから、

おそらくそんなことをすること自体禁止されていたと思います。でもあのときは・・・目を盗んで・・・

そんなことがあって間も無く私たちを逃がしてくれたのですから、辻褄が合うかも知れません。もしかして命がけで在ったのかも」


「つまりあなたにも子供にも情が移ったのかも知れないってことですね?」

「そうかも知れません。」

「それでは明日にでも早速あなたが解放された姫路市へ行き取り調べを始めたく思います。


事件は事件として解決に努めますが、

さて旦那さん、
奥さんがとんでもない事件に遭遇して、大変なことになっています。
お聞きしていて旦那さんとしてのお気持ちは、複雑であることはお察しいたします。
私も我が家の案件であるとするなら、一升瓶をラッパ飲みしてでも暴れたい心境です。

 あなたは度々尋ね人の欄に奥さんの消息を突き止められていたことを思うと、

決して奥さんのことを見捨てたわけでもなく、諦めたわけでもなく、恨んだり憎んだりしたわけでもなく、案じ続け、心配し続け、今日に至っていると思います。

奥さんが話された内容は、旦那さんの立場で思えば、とても残酷な話であり、受け入れがたい話であると思われますが、


ただ何よりも重大な事は、奥さんは誰よりも大きな被害を受けた人と言うことです。

ですから今日はお家で奥さんと離れ離れになっていた二年近くの月日を取り戻してもらいたいです。

一杯話し合ってください。
一杯泣いてください。
一杯仲睦まじかったころのことを思い出してください。」

 瑠奈はその夜、新婚で時を重ねた、幸せしかなかった我が家に戻ることとなった。


「大変だったね。毎日気をもんで心当たりを当たってみたけど、それもいつしか無理ではないかと思いだし、警察も努力はしてくれいたと思うけど、でも
奥さんの交友関係はとしつこく聞かれて、どこまで真剣なのかと疑ってしまい


まさか拉致監禁されていたとは思いもしなかったから、寧ろ瑠奈が誰かいい人と出会って、それで駆け落ちでもしている程まだ気も休まるかも知れないと思ったこともあったなぁ


正直に言うと瑠奈の娘時代に色々あったことも聞いていたので、それは結婚が決まるまに興信所で調べさせてもらって

これは私がしたのではなく親父がやったことだけど、

だから親父は私と瑠奈の結婚を反対したのだけど、私は瑠奈のことが大好きだったから、瑠奈でないといけないと親父を説得して


でも結局私の強引な思いは叶えられたけど、こんな体で瑠奈には申し訳ないことをしてしまったね。


私に問題がなければ、瑠奈だって元気な赤ちゃんを産んで、ここで幸せに暮らしていたと思うと、私の至らなかったことが、大きな罪を作ってしまったようだね。」

「わたしね、ここへ帰ってきたのには、いくつもの意味があるの。意味って言うか目的って言うか、あなたに言わなければならないことが、

ここに離婚届があるの。私の名前を書いてあり、いつでもあなたの名前を書いてくだされば離婚が成立するの。

あなたがこんな長い間、私を待ってくださっているとも思わなかったから、

それに今日あなたは私の現実を知って、逃げ出したいと思ったかも知れないし

それにあなたに好い人が見つかり、私と結婚している事が邪魔になっているかも知れないと思って、

そして私が経験してきた諸々のことを、男のあなたが許すとは思わないから


だからお互いのことを思って、
これからあなたと暮らしたとしても、世間も許してくれないかもしれないし、あなただって会社の社長と言う立場もあるだろうし、


色々考えた挙句、私にできる事って知れていると思うわ。だから情けないけどわたし決心しました。」



「それでいいの?後悔しない?大丈夫だよ私なら
瑠奈がこの二年ほどの間苦しんでいたのだから、亭主としてそれをわからないなんてそんな私ではないから。

私は瑠奈を誰よりも愛していることを、瑠奈は知ってくれているじゃないか?

毎朝私を見送ってくれて、元気づけてくれて、
私は瑠奈に本当に辛い思いをさせたと思う、それに気が付かなかったことを申し訳なく思う。

瑠奈が一人で悩んでいたことを、
瑠奈が出て行ってから何度も耳に入り、
私は瑠奈と言う一人の女性をどれだけ苦しめていたか、そう思った。

瑠奈が学生の時に経験した何もかもを、わかろうとはしなかった私が居たからでも瑠奈は女として私にはわからない苦しみと闘っていたことを知った。

瑠奈は女、女の意味を私は知ろうとしなかった。

早まった幼い考えの若者の過ちと捉えていて、瑠奈の気持ちがどれだけ傷付いたのかとか考えるより、瑠奈がその事を若気の至りとして忘れるように考えただけであった。

それが愛情で在り恋であると思った。思いやりであるとも思った、。
でも瑠奈の心の傷に対して私には処方箋がなかったらしいね。

 
 
それで、その子がどんな子でどんな経緯があるかは私にはわからないし関係ない。

でも瑠奈がその子を愛することが出来て、そして責任をもって育て上げる愛情があるなら、私も力になりたいなぁ

私だっていつの日かお父さんって呼ばれる日が来たならどんなにか嬉しいか


瑠奈、そんな離婚用紙なんか捨てて私とやり直そうよ。

また毎朝玄関先でその笑顔で見送ってくれればいいから




 瑠奈、お帰り、待っていました。 毎日明けても暮れてもあなたを」


「幸秀さんありがとう。 どう言ったらいいのか 思いつかないわ・・・」

「いいよ、無理もないよ。瑠奈が経験したことは聞いた事のない過酷なこと
時間がかかると思うけど、私も血の通った男、人情も少しはある男
理解力もあるはず。

だからゆっくりと取り戻そう。また昔の二人になるように、 

これで一件落着だね。



 さぁ急にお腹が空いてきた。何か作るから。
この頃は自分で作る癖がついているから少しは美味くなったから」
「・・・・」
「瑠奈、私たち養子をもらったってことですべて解決だね。」
「優しいのね・・・思ってもいない、思ってもいない流れだから正直戸惑っているの。
そりゃぁ頭の中では可能性はあったけど、でもこんなに優しくされるなんて怖いくらいなの。私は以前の私ではないのよ」

「いいから折角作っている料理が不味くなるだろう。 そんな話をしながらでは
・・・・
過ぎたことは言わないこと。

過ぎたことを言っても誰もうれしくないから。瑠奈、私の気持ちを想像して
判るだろう?諄く言わないほどいい事が」

「わかりました。」

「さぁ出来たぞ!お気に召すか知らないけど。 召し上がれ!」
「ありがとう。いただきます。」



 瑠奈は目に涙が浮かんできたが、さっとそれを拭き
「初めてですね。あなたの手料理を頂くのは。」
「どう?おいしい?」
「ええ」
「瑠奈、2人で頑張って乗り切ろうよ。その子だっていつか馴染んでくると思うよ
瑠奈が愛情を込めて育ててあげれば。

私も精いっぱい努力するから。子供に何ら責任はないのだから」
「わかりました。」




 瑠奈は心ある夫の元でまた暮らすことになった。
健一もしっかり歩くようになり、時たま「ママ」と言って走って抱き着くこともあった。

瑠奈はまさしくママである。お腹を痛めた母親である現実に勝るものはなく、日を重ねるごとに瑠奈はママになっていく。

例えその子が誘拐犯の子で在っても、強姦を繰り返された末に出来た子で在っても、



そして日を重ねるごとに、仲は睦まじくなる半面で、2人の関係をよく言わない輩が周りに何人も居て、

瑠奈が居なかった二年近くの空白を、誰もが変な噂をネタに話を弾ませていた。

奥さんが浮気をして、其れで子供ができて…ご主人がかわいそう、私なら追い出すけどねぇ  不貞女 ちょっと綺麗だからって何でもありなの・・・

 
 まるでそんなセリフが聞こえてきそうな雰囲気に包まれていたことは確かで、以前は仲が良かった近所の奥さんでさえ、距離を感じることになった瑠奈は次第に孤立していった。


ある日瑠奈は、
「ねぇ、みんな変よ、私が帰ってきたのは間違いだったのじゃないかな?
以前は親しくしてもらっていたさちえさんだって私を避けているのわかるから

美香さんもエミさんも・・・

貴方だって警戒されていると思うよ。たぶん今までと違うこと感じていると思うな
自治会のお掃除この前あったでしょう。 気が付いたはずよ。」

「いやぁ私は男だから気にしていないけど。でも確かに誰とも話はしなかったなぁ」

「ええ、健一がこれから保育園とか行ったなら、きっと仲間外れにされると思うわ。
今私がされているように」

「そうかな・・・考えすぎじゃないの?」


「昔ね、同じ自治会の方で火事に遭った方がいたでしょう。あの方のことを思い出すの。
自分の家に保険金目当てで放火したって噂になって、其れで出て行った人を」
「あったねぇ、そんな話が、田所さんだね。」

「私あの方と街で出会ったことあるの。朝はいつも挨拶したりして、親しくしていたから。それで悔しかったって言っていたことを覚えているわ。

お母さんが一生懸命女手一つで頑張って働いて、それで買った家なのに、なんで俺が放火するのかって嘆いていたことを思い出すわ。

仕事も辞める羽目になり、噂って怖いですって言っていたわ。


今私たちにそれが容赦なく降り注いでいる様よ。
私たちじゃないわね、私にだわね。

無理かもしれない。ここで暮らすことは許されないのかもしれない。」


「瑠奈、あまり深刻に考えないことだよ。世間は煩いけど、でも無責任でもあるから、飽きてくればみんな忘れてくれるから。

あの火事に遭った田所さんだって、もっと強く生きていれば、乗り切れたはずだよ。根性が居るかもしれないけど。

だから瑠奈も相当の経験をさせられたのだから、歯を喰いしばって生きていくべきだよ。健一を守ってあげられるのは私と瑠奈だけだから」



 優しい夫に見守られながら瑠奈はそれなりに落ち着いた日々になっていき
僅かであったが幸せな気持ちにもなっていた。

少々の波風など吹き飛ばす勢いの夫の元で、瑠奈は妻として母親として、
僅かな幸せに包まれて穏やかに暮らしだしていた。


ところがある日
夫が相当酔って帰ってきた時、思わぬ言葉が夫の口から出たのである。

「あ^ぁきょうはつかれたなぁ 参ったよ。」
「どうしたのですか?」
「いや~けんいちのことをきかれてな、それで、それで、いやぁやめておくよ」
「何がありましたか?こんなに酔って」
「酔いますよ。酔わずにおられなくて、」
「どうしたのですか?」
「瑠奈、これまで黙っていたけど疲れたよ。私はそんなに強くはないよ」
「それはどういう意味でしょうか?」 
「・・・・・」
「だから私は帰ってはいけなかったのでしょう?噂には勝てないと思いますよ
田所さんだって、言っていたように」
「ごめんな、わたしは口では優しく悟ったようなことを言っているけど、心にためてしまって、いろいろなことを」

「だから離婚届を書いてあなたにお渡しするほど良かったのですよ」

「もう寝かせてもらうよ。この話はこれ以上したくないから、もうたくさんだ・・・」 

「余程嫌なことあったのですね。あなたの心が傷つくことが、でもそれはあなたの心の中にあることですよ。弾き飛ばすだけの器量があなたには無かったと言うことですよ。
 私たちを守ってくださるのか、そうでないのか、それはあなた次第と思いますよ。
私ははっきり言って無理かもしれないと思えてきました。

ましてあなたもこの様になって来たのだから、限界かもしれませんね。」

 
 

 瑠奈がしゃべっている時に夫は目をつむってしまった。
しかしその眼には一筋の涙が頬を伝っていた。




あと1か月もすれば健一の2歳の誕生日になる。
夫の元へ戻って4か月が過ぎていたが、瑠奈は夫からとても冷たいことを言われたこともあり、女として情けなくもあった一言で在った。

「瑠奈、君はずいぶん変わったね。以前の君を探すようにしているけど、みつからないなぁ。

瑠奈はもう昔の瑠奈ではないのかな?
瑠奈の全身に、私の知らない汗で在ったり、臭いで在ったり、癖で在ったり

いろんなものが塗り替えられているような気がするな?

君の感じ方もそうだし、息遣いだって全く違うし、」


煙草をふかしながら夫がさめた目で、そして口で淡々とそう言ったらしい。


瑠奈は、その時俺の顔が浮かんできたと、そして監禁されていたのに燃えてしまった現実が蘇ってきたと、


健一の誕生日の前日、
瑠奈は離婚証書を仕上げて、引き出しにしまい、
それから夫に別れの手紙を書き、健一の誕生日に石村家を後にした。


俺がそんなことは一切知らないから、いつもの様に瑠奈の写真と健一の写真を拝み、
それに健一が誕生日である今日その日であるから、大きな花丸で派手に囲み、

「2歳おめでとう」 、と

手書きで添え、それを見つめながら仕事に出かけた。



夕方仕事を終えマンションに帰ってくると、コンコンとドアをたたく音
仕事関係の誰かかも知れないと思い無動作にドアを開けると、

瑠奈が遠慮気味に立っていてその手には健一が、


「え、瑠奈?どうして?さぁ入って、健一?大きくなって」

俺の目に涙が湧いてきて、
肘で少年のように涙をふきながら、それでも止まらずタオルを手にして顔全体を包むようにして涙を拭いている。嬉して恥ずかしくてたまらなかった。


瑠奈はすぐに自分と健一の写真を壁に見つけ、何も言わずにそれをじっと見ている。
そして健一の誕生日が今日であることを赤い丸で囲んであることを知り、思わず目から涙を垂らして、

「毎日気にしていてくれたのね。ありがとう 感謝します。心配かけてしまって
本当にごめんなさいね」

「瑠奈、其れを言わなければならないのは俺の方、毎日謝っていても全然足りないから。死んで謝っても収まらないと思っている。


それで俺どうすればいいの? 瑠奈はどうしてここへ?」

「あんな形で出て行っていて今さら何よってところだと思うけど、ここへ戻りたかったの。

健一も今日が2歳の誕生日だし、それを喜んでくれるのはあなただけだから。

迷惑だって言わないで」

「迷惑ならこんな風に赤で丸なんか描かないよ。俺をいじめるなよ。」

「ここで居てもいいですか?」

「当たり前だよ」

「離婚もしてきました。きちんと」

「そう、また聞かせて詳しい事を、あれから1年間のことを」

「ええ、」


「瑠奈、今度はずっと居ててくれるんだね?」

「ええ、そのつもりです。疑うのなら私の手足を縛ってくれれば」

「そんな冗談は言うなよ。」

「いえ、縛っておかないと私また逃げだすかも」

「やめろって!」



 俺は瑠奈を涙一杯にして抱きよせた。


       了

 題 名 あなたを殺したい
 筆 者 神邑 凌