武士道残酷物語 (1963) 監督 今井正






ストーリー(個人サイト)




感想ひと言「えげつない」。



でもそれが日本人の性質の一端であること。「武士道」を盾にして男社会が絶対であった体質、ゆえに虐げられて当然みたいな女性たちと、男同士でも「主君」に従い「忠義」をもとに男の価値と、「人」としての存在価値が決定づけられていた過去。いや、過去とそれに繋がる「今」。

この映画は、まったく賞賛の意味で ”キチガイ役者"・中村錦之助、のちの萬屋錦之介(1932-1997)が、慶長15(1610)年から現代(1963)年に至るまで、七代・350年余に渡って引き継がれ生きていく様を、そのうちの6代6役、演じ分けております。鬼気迫る演技、その時代時代を生きた男をかくも見事に。素晴らしいに尽きます。





萬屋錦之介(よろずや・きんのすけ) Wikipedia 個人的には子ども時代、TV版「子連れ狼」シリーズが印象的。






物語は1960年ごろの「現代」から始まります。

30代、バリバリ営業マン・錦之助の婚約者、三田佳子(当時22歳)が自殺未遂をおこし病院に運ばれます。錦之助かけつけて「我が家の歴史は繰り返されるのか!?」と秘かに唇を噛み締めます。というのは、実家の土蔵から発見された先祖代々が書き残した日記を読んでいたからです。その日記の中身というのが、今の錦之助まで脈々と連なる、見るにおぞましい、血塗られた過去だったからなのです。










日記の一番古い記述は、慶長15(1610)年から始まります。

1代目・錦之助は関ヶ原で破れたものの槍術の腕が見込まれ、主君に取り入れられ「生涯、主君のためなら命を賭す」と誓います。主君のために生きてこそ武士道であり、それをもって家訓とするのです。やがて老獪の域に達した錦之助は、島原の役で主君が犯したミスを庇うため指揮官の前にひとり赴き、そこで割腹します。指揮官はその行為を「武士道の鏡」と賞賛し、主君は逆に領地を増やされることとなりました。




主君を演じたのは、初代・水戸黄門こと東野英治郎(1907-1994)





父親の割腹で、息子(2代目錦之助)にもわずかながら禄が入り、錦之助は美しく慎ましやかな妻・渡辺美佐子(当時31歳)と3歳ぐらいの男子とささやかに暮らしながら、主君の側に仕えます。ここでもことあるごとに「我々の生活は主君あってこそ!」と妻や子どもに言い聞かせております。がしかしある日、病に臥せっている主君の食事係をしていた錦之助は「ご健康のために少しでも召し上がって下さい」と差し出した茶碗を「食欲がないのじゃ!」と突っ返され、そこで「いえいえ是非、お一口でも」と差し出した、たったそれだけのことで主君の怒りを買い(黄門様、かなりボケ暴走老人だったのです)、蟄居(ちっきょ:自宅謹慎)を命じられ、禄まで没収され地位を失ってしまいます。理不尽このうえない(怒)。そもそも2代目の父の切腹で主君は生き延びたのに、しかもその論功も(黄門様ケチなので)2代目にあまり与えず。なのになのに2代目錦之助は「ワシが悪かったのじゃ、許せ」と妻に詫びます。妻の美佐子様もじっと耐え忍びます。






今回の渡辺美佐子♡、エロ抑えてます(別写真)





そんな時、主君が死んだという知らせが入ります。ここで(今じゃまったく信じられませんが)主君に仕える多くの男たちが「追腹」します。つまり後追いで死んでいくのです。蟄居中の錦之助、いてもたってもいられません。死に目にも会えなかったばかりか見張りも付いて長屋の外へ出られない立場。錦之助は妻にしっかりと伝え、妻は子どもも小さいので説得を試みますが無駄。錦之助は自宅で割腹します。これが「武士道」と言わんばかりに。





そんなことが果たして「武士道」なのか? 名著と呼ばれる「葉隠」だって明治期以降に書かれたもので、今でも賛否で語られます。


『葉隠』の武士道―誤解された「死狂ひ」の思想 (PHP新書)






時は元禄時代(1688〜)に移ります。間に1代挟んで4代目・錦之助になります。4代目は18歳くらいの美少年で、先の黄門様の流れを汲む、時の権力者の側に仕えることになりました。権力者を演じるのは、同じく”キチガイ役者” かつダンディ森雅之(1911-1973)♡。森は日々豪華絢爛な歌や踊りをたしなんでニンマリふんぞり返ってます。彼には側室が数名と、岸田今日子(1930-2006)演じる正室がおりますが、森さん男色家なんです。岸田さんじっと歯を食いしばって耐えてます。森はさっそく4代目錦ちゃんの可愛さに目を付け、寝室におびき寄せて嫌がる錦ちゃんを強引に。錦之助にはその気がなかったので寝室を出てからは泣きじゃくる日々、でそれをじっと覗き見している岸田今日子。





ダンディ♡森雅之(別写真)






森雅之は変態です。他の少年恋人が、岸田と錦之助がやばいとチクったことで策を実行します。策とは「話があるので茶室に来い」。錦之助が先に入って待ってます。と、やってきたのは岸田今日子。岸田もハメられていることに気づかず。岸田から「森は遠くに馬を飛ばしている」と聞かされた錦之助、茶室を出ようとしますが寂しくて寂しくて仕方がない、かつ日々耐えている錦之助に同情していた岸田今日子はついにというか、当然の成り行きで関係を持ってしまいます。で、事が終わったころ、森雅之登場。不義密通の罪であわれ錦之助は去勢されてしまいます。そのうえ「二人で夫婦になって暮らせ」と追い出します。錦之助の田舎に籠った二人、がそのたった一回の密通で、岸田のお腹には命が宿っておりました。






岸田今日子、ムーミンの声も彼女♡。何を演じてもそこはかとなくエロ、そして不気味感あるところが好きです。(別映画)






さらに時は移り天明時代(1781〜)。

浅間山の噴火など天災で農作物は不毛、なのに時の権力者・江原真二郎 (1936-)は農民に年貢を強要します。農民たちは「江原じゃ話にならん!」と、江戸へ昇って老中・田沼に直訴します。今回の江原真二郎、かなりヤバいです。同年公開の傑作時代劇 「十三人の刺客 (1963)」 監督 工藤栄一 (公開は「武士道〜」が4月、「十三人〜」が12月)で登場した残酷無用、冷血バカ殿・菅貫太郎のきっとモデルになったのでは?と思えるほど狂ってます。江原は田沼から怒られたので、先ず真面目で剣の達人である5代目錦之助を呼び出してこう命じます。「おまえの超美人娘を、田沼様に差し出せ!」






美人娘を演じるのは松岡紀公子(のちの松岡きっこ♡当時16歳)別写真。





きっこちゃんには錦之助夫妻も認める婚約者・山本圭(1940-)がおりました。あとは祝言をかわすだけだったのですが、ここでも5代目・錦之助、「主君のためならば」と妻・有馬稲子(1932-)を説得し、泣きじゃくるきっこちゃんを無理矢理老中の元へ送ります。さて、江原は今度は上訴した農民たちを広場に集めて公開処刑をします。首まで土中に埋めて、同じ農民たちに竹で作ったノコギリで首を斬れという残酷非道。農民たちとも仲良くしていた錦之助だったのですが、抵抗する農民のひとりをずばっと斬り捨ててしまいます。それらを見物してニタニタ笑う江原真二郎。





江原真二郎。キャリアのほとんどが善人とかとぼけた感じだと思いますので、ここでの残忍っぷりは貴重かも。(別写真)






農民たちからも嫌われ、野菜も別の村へ買い出ししなければならなかった妻・有馬稲子が今度は狙われます。鷹狩りを終え馬で通りかかった江原は「あの女を呼べ、話がしたい」と命じます。錦之助は心配する妻に「主君がそう言うのなら喜んで行きなさい」と送り出します。案の定、江原は寝室で待ってます。強引に通されてしまった稲子様はあわれ。さらに悔恨の稲ちゃん、その場で自害します。





貞淑で武士の妻の鏡みたいな有馬稲子、無念です!(別写真)






そんな妻の帰りを待っていた錦之助の前に籠が到着します。中から出て来たのは妻の亡骸。そしてずっとそんなバカ殿に仕えて悪っぷりを支えて来た怪優、側近・佐藤慶(1928-2010)によって錦之助、蟄居を命じられたことを伝えられます。もうめちゃくちゃな話です。






佐藤慶、そのキャリアにおいて「善人」なんてなかったような?。あっても実は・・・みたいな記憶しかありません。ほんと凄い俳優♡。(別映画)






そんな時、老中・田沼が死に、嫁がされていた娘・きっこちゃんが戻って来ます。きっこちゃん、母が死に父の地位が危ういことを知り絶望しますが、元の婚約者・山本圭 がこっそりやってきて(錦之助の家は見張られております)、今度こそ一緒になろうと誓います。がしかし、狂った江原が黙ってませんし、当然彼はきっこちゃん狙ってました。江原は二人を不義密通と決めつけ捕らえ牢屋に入れます。さあ錦之助からすると、妻は犯され死に、愛娘も差し出したのに捕らえられ、ついにいよいよぶち切れます。



もうね、ここまで観ていて腹が立って腹が立って。「何が武士道じゃ!いてまえ〜!」と歯を食いしばっていた私、錦之助大応援です。



江原真二郎と佐藤慶がいる前に刀を持った錦之助やってきます。しかし「てやー!」と斬り掛かって欲しかったんですが、いや、武士としての立場が違いすぎるので言葉を選んで主君を諌めようとしますが当然駄目。逆に娘がどうなっても良いのか?とか責められたあげく、許して欲しいのなら得意の「目隠し殺法」で、連れてくる罪人二人の首を撃ち落とせ」と命じられます。江原はすでにこの技を見物してて大いに褒めていたのです。



無念の錦之助(哀)。





もうネタ割れてます。

なのに目隠しをした錦之助の前に、猿ぐつわに袋を被せられた男女が連れて来られます。錦之助、この主君からの命令に従いさえすれば愛娘・きっこちゃんが助かるとばかり、見事に男女の首を斬り落とします。で、それがきっこちゃんと、その元の婚約者・山本圭と知り、絶望して ↑ 上の写真のように我が手を刺して後悔しますが時すでに遅し。









時代は明治初期 (1868〜)に移ります。

6代目錦之助は、車夫をしながら法律を勉強する好青年です。そんな彼が車に乗せて狭い我が家に連れて来たのは、錦之助にとっては欠かせない「当主」の流れを汲み、時代が変わり子爵になった老人・加藤嘉(1913-1988)でした。錦之助は一緒に暮らす恋人・丘さとみ (1935-)に、加藤嘉老人子爵を手厚く面倒見るように伝えます。しかしこの加藤嘉、すでにボケてます。さらに好色でした。加藤嘉は錦之助が働いて不在な時に、面倒を看てくれる丘さとみに襲いかかり犯してしまいます。強烈なエロ老人ぷり。





丘さとみ(別映画) 「大菩薩峠 (1957)」 監督 内田吐夢 の冒頭と終盤(および未見ですがその後のシリーズ)でキーマンになる女を演じてました。





超名優・加藤嘉に関しては、今まで何度も絶讃してきましたので今回は語りません。(写真別映画)






それでも錦之助は、愛する丘さとみが穢されてもなお「当主を慰められるのはおまえだけだ、頼む!」という立場です。もうわけわかりません。そしてとても良いことに、加藤嘉が階段から転げ落ちて死亡。ようやく二人は呪縛から解け、所帯をもって子どもに恵まれたのですが、時代は戦争へと向かいます。

これで6代目錦之助は日清戦争に出征して戦死。その子のうち兄も、第二次世界大戦での特攻隊で戦死。

そして現代、残った弟・7代目錦之助に、お話が巡ってくるのです。






三田佳子。昨今、何かと息子さんの問題で報じられますが、とても良い、儚い感じの味がある女優さんです。(写真別映画)







映画冒頭の、三田佳子を自殺未遂に追いやった原因は7代目錦之助にあります。三田佳子は錦之助と会社的にはライバル関係にありました。しかし二人は愛を育んで挙式を予定し、錦之助は自分とこの上司・西村晃(1923-1997)に報告し、仲人をお願いします。が、西村晃は来る大きなダム工事の受注入札価格を巡って、ライバル会社のタイピストである佳子ちゃんに、お宅はどれくらいで入札するのか?を探れと、はっきり命令しないのですが、そう仕向けます。結果、佳子ちゃんは愛する錦之助のために情報をスパイして伝えます。それによって錦之助の会社はダム工事を受注することになってめでたしなんですが、二人が今結婚してしまえば、様々な不都合が明らかにされてしまうのではないかと疑った二代目黄門様こと西村晃が、二人の挙式の延期を要請します。そんなことと、スパイしてしまった良心の呵責とで、あわれ三田佳子は気を病んで自殺未遂してしまったのでした。





西村晃。二代目黄門様になったのは後年のこと、この時期はイケイケ悪役専門でした。






ついに巡り巡って7代目錦之助、決心します。

田舎の土蔵で発見した先祖代々の日記を思い出し、やっと負の連鎖を断ち切る覚悟しました。三田佳子を守り、当主とか、会社に忠誠を誓い生き続ける生き方から飛び出そうと。だからハッピーエンドです。



でもね、ここまで観てて、この現代パートは犯罪やん!と思った次第。



三田佳子は漏らしてはいけない情報を漏らしたし、錦之助はそれは暗に仕向けたし。

映画はなんだか希望ぽく終わったのですが、この現代に関しては、煮え切れません(笑)。

果たしてこのまま幸せな家庭を築けるのでしょうか?裁判なり禊を受ける覚悟はあるのでしょうか?ひょっとして「会社」のために、錦之助は三田佳子の口を封じてしまうのでは?とか、そうなるともはや7代目では終わりませんね。いやはや・・・。




ほんとっ、名優です!


中村錦之助 東映チャンバラ黄金時代







観ていてずっと感じたことは、350年の間を演じる中村錦之助の演技。フツー、年代が変われば無理があったりするのに無い。しかもとりたててエキセントリックでもない。それぞれの時代に合わせた錦之助がそこにある。これって凄いことやなと。さらにここまで紹介してきたように共演者が素晴らしい。監督は 「ひめゆりの塔 (1953)」  で沖縄から日本を捉えたように、恐らくこの映画でも「武士道」の名の下に存在する日本を捉えようとしたのではないでしょうか?

当サイトたぶん最長レビューになったと思います。お読み頂き感謝です!





2018年 10月19日
ラピュタ阿佐ヶ谷 
絢爛 東映文芸映画の宴” にて観賞






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↓ 錦之助様のお顔が、どうしても宝くじのCMに出ている役所広司さんに見えるのは俺だけ?


武士道残酷物語 [レンタル落ち]








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