たそがれ酒場 (1955) 監督 内田吐夢







居酒屋マニアの考察
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優秀なレビュー
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日本映画史に残る傑作 [飢餓海峡 (1965) ] をものした内田吐夢(うちだ・とむ 1898-1970)監督がその10年前に発表した秀作。

内田吐夢 Wikipedia にあるように戦前、大正時代から数多くの作品をつくりあげた監督は、戦中は満州に渡り記録映画(中には戦意高揚のものもあっただろう)を製作、戦後も中国に留まりやっと帰国できた1954年に東映入社。このときおよそ43歳。

この内田吐夢監督の43歳を、今のぼくたちの時代の43歳と同じようには語れない。しかも戦争や従軍、抑留生活を経て、さらに言うなら戦争さえなければもっともっと、一番働き盛りの時期に撮れなかった作れなかった思い。それらを戦後、きっと復興著しい新しい日本で表現する。そんな気持ちをいくら想像力を働かせても、少なくともぼくにはその神髄のようなものは実感できない。







私説 内田吐夢伝







なんか熱く、重く書き出しましたが、この映画は反戦でも或は昔は良かったなあ〜でもなく、当時の世相、ある飲み屋に集う人々の姿をただ活写したもので、そこには戦後まもない人々の姿が(ドラマチックな部分はあるにせよ)リアルに存在しています。

映画は夕方、開店前の店内、カメラは広いフロアのテーブルに裏返しで乗せられた椅子や、誰もいない店内をゆっくりと移動ショットで見せていきます。壁にはお品書き「焼き鳥10円・冷や奴30円・トンカツ100円」などがあり、そこにピアノの伴奏で、男性のオペラの歌声が聞こえます。ステージのようなものがあり、そこで酒場専属の歌手の男が歌っていたのです。伴奏が突如止みます、そして演奏していた初老の男が歌手をなじるように声を荒げます。「そんな歌い方じゃない!」歌手の若者は姿勢を正し、頭を下げて謝ります。












やがて女給さんたちがやってきます。「おはようございま〜す!」口々に元気な若い女性たちが、二つある入り口からぞろぞろと集まって、椅子を並べたり開店準備を始めます。溌剌としてます。そして三々五々と客がやってきて、またたく間に店内は満員に。「いらっしゃいませ〜」「7番さん、お銚子ふたつ〜」キビキビと(結構数が多い)女給さんたちが働く姿と、集う客たちの様々な姿を交錯して見せていきます。











↑ 軍隊で上官だった東野英治郎(手前)、ちびちび(たぶんお金がない)飲んでいて帰ろうとしたところ、かつての部下、加東大介(奥)に発見され無理矢理飲まされ、戦時中を懐かしみ飲んだくれて行きます。二人の横に立つ女性は、客席を廻って煙草(恐らくシケモク再生か粗悪品)を売ろうとして全然買ってもらえない薄幸の老婆。

戦時中を懐かしむ彼らのそばでは、未来ある大学生の男女たちが恩師と肩組んで歌い青春しています。その姿に「ちっ!何が民主主義だってんだ!」と苦虫を噛む客がいるかと思えば、この酒場でダントツの可愛さの女給・野添ひとみ(当時18歳♡)を巡って「お前は俺の女だ」とゴロつくチンピラ・丹波哲郎。そこにひとみちゃんの彼氏でこれまたヤバい職業系の宇津井健がやってきて、そこにあるフォークで哲郎の手の甲をぐさりと刺して珍しく宇津井健の勝ち。やがて司会のアナウンスがあり、開店前に練習していたオペラくんが歌い始めます。歌い出すのはソーラン節。バリバリオペラ歌唱で民謡なので奇妙この上ないのですが、客は大盛り上がり拍手喝采。野添ひとみも1曲歌いますし、メーンイベントはストリップ!(といっても全然エロくない踊りだけで脱ぎません。オペラくんがスポットライト係になって踊り出すのは、 「ひめゆりの塔 (1953) 」監督 今井正 で泥まみれの名演から二年後の津島恵子(当時29歳)スタイルが素晴らしい♡











するとさっきまで飲んだくれていただけと思っていたある男が、包丁にぎって津島恵子に突進してきます。大騒ぎで難は逃れ、男は警察に連れて行かれますが、実は津島の元夫で逆恨みとか。酒場の外では労働争議のようなデモ行進があり、それを見ながらやや中二階にある酒場からヤジを返す客(カメラは外側を映しません)、その隙にテーブルを渡り歩いては、残った酒や料理をせっせと口にして酔っぱらう男・多々良純がいたり(ラストまで残飯無銭飲食を続け寝てしまう)様々な人間模様、おもろいです。









物語の鍵を握るのは、開店前にカウンターの隅に座った初老の男・小杉勇(写真左端)。常連さんで女給さんたちも一目置いている様子。彼は元有名な画家で、戦時中にプロパガンダ国策絵画を多く描いたことを悔やみ筆を折ったのです。そんな小杉勇に野添ひとみちゃん(写真左奥)が相談してきます。宇津井健が今夜の夜行列車で大阪に飛ぶので付いて行きたいが、幼い妹と貧乏な家族を捨てられない。愛に生きるか?家族を選ぶか?そして「お母さんの病院代にするお金がない」と泣きながらやってきた妹に、給料前借りを店長(写真中央)に頼むが断られたと。小杉勇は「私にまかせなさい」とひとみちゃんをなだめ、店長に「今夜中にパチンコで儲けて返すから」と3千円を借り、これをこっそりのぞみちゃんに渡します。

いっぽうオペラくんは、偶然居合わせた有名な声楽家にその才能を認められスカウトされます。有頂天になるオペラくんでしたが、何故か師匠のピアノマンが「断じて許さん!」と理由を語らず首を振ります。あまりに頑固一徹なので、殺されかけた津島恵子も仲裁に入ります。実は、その昔(たぶん戦前)ピアノマンの妻がその当時新人だった声楽家と浮気して、ピアノマンは妻を殺して刑務所生活をしたという衝撃の過去があったのです。獄中生活でピアノマンは容貌もすべて変わってしまっていたので声楽家も気づかなかったのです。

そこらへんの過去もぜーんぶ知っていた小杉勇が優しく厳しくピアノマンを諭し、ラストでオペラくんはこの場末な居酒屋から卒業することが叶うのでした。とまあ、最後の最後までカメラは酒場から出ないまま繰り広げられる、その群像の差配はさすがの内田吐夢監督(写真右)。





ピアノマンを諭す津島恵子(中央)。右側でしょぼくれるオペラくん。オペラくんとピアノマンはプロの音楽家で演技経験なかったそうです(確かにちょっと固かった)。






ところで小杉勇はいつパチンコに行くのだろう?と思っていたら、旧知の新聞記者がやってきて「あなたの絵がもう一度見たい」とべた褒め。小杉は似顔絵を書くから3千円で買わないかと持ちかけます。新聞記者大喜び、小杉、さらさらっと(たいして上手くないと思いましたが)描いてガッチリチャラ。閉店後、宇津井健と駆け落ちするため東京駅に向かっていた野添ひとみが泣きながら戻ってきます。大好きな宇津井を捨て、家族を優先した彼女の決断を、小杉は優しく抱きしめてあげて祝福します(今ならセクハラにも見えかねんけど)。そして二人が出て行って、店内の灯りが消されて「完」。





もう一度、津島恵子。手書き補正で顔が違って見える。







ドイツのビヤホール(日本で見るライオン・ビヤホールみたいな)酒場のセットが素晴らしい。 [飢餓海峡 (1965) ]  のような大きくダイナミックな人間模様を描き切る監督の才能は、このような小さなことが緻密にできるからこそと感服した次第。当時の酒場の雰囲気(大きめのね)、風俗を感じるのにも最適の一本でした。おススメ!







2018年 9月11日
神保町シアター ”夢見る女優・野添ひとみ”にて観賞








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DVDジャケはやはりこうなる。ちなみに奥の男が元旦那。ベソかきながら飲みながら、元嫁の踊りをたっぷり見てから襲いかかったのでした。


たそがれ酒場 [DVD]









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